
はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、ダイキン工業(以下:ダイキン)を取り上げます。
目次
ダイキンはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、3つの事業に分けることが出来ます。
- 「空調・冷凍機」
- ルームエアコン、空気清浄機、給湯機、ヒートポンプ式温水床暖房、パッケージエアコン、ターボ冷凍機、フリーザー、海上コンテナ冷凍装置、船用エアコンなど
- 「化学」
- 冷媒、フッ素樹脂、半導体用エッチング剤、界面活性剤、医農薬中間体など
- 「その他」
- 産業機械用油圧機器・装置、建機・車両用油圧機器、防衛省向け砲弾・誘導弾用部品・航空機部品、在宅酸素医療用機器など
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。

※設備投資費はセグメント毎での開示がなされていなかったので今回は省略します。
売上 順位
- 1位:空調・冷凍機
- 2位:化学
- 3位:その他
利益 順位
- 1位:空調・冷凍機
- 2位:化学
- 3位:その他
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:空調・冷凍機
- 2位:化学
- 3位:その他
順位をまとめると以下のようになります。

セグメント 総合順位
- 1位:空調・冷凍機
- 2位:化学
- 3位:その他
とりあえず「空調・冷凍機」が一番の稼ぎ頭なので研究開発費もそれなりにかかり、貢献度が低い「化学」と「その他」は順当に研究開発費はそんなにかからない、という至極まっとうな結論に行きつきます。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。

※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:その他
- 2位:化学
- 3位:空調・冷凍機
利益/従業員数 順位
- 1位:化学
- 2位:空調・冷凍機
- 3位:その他
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:化学
- 2位:空調・冷凍機
- 3位:その他
順位をまとめると以下のようになります。

従業員1人あたり 総合順位
- 1位:化学
- 2位:空調・冷凍機、その他
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:空調・冷凍機
- 2位:化学
- 3位:その他
セグメントをチームとして見ると「空調・冷凍機」は圧倒的に強かったのですが、個人技に落とし込むとそこまで圧倒的に強いという訳ではないことがわかります。
何ならば利益効率以外は「その他」の方が強いようです。
そして個人技では「化学」が飛びぬけて強く、特に一人あたりの営業利益に関しては「空調・冷凍機」の約1.5倍とそのクオリティの差は歴然です。
どこの国で仕事をしているのか

地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:米国
- 3位:中国
- 4位:アジア・オセアニア
- 5位:欧州
- 6位:その他
国別で見ると日本が1位ですが、全体で見ると海外売上比率は70%を超えているいわゆるグローバル企業のようです。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率

取り立てて何かが優れているという訳ではありませんが、ひとまずは財務は健全と言えそうです。
B:CF計算書

※単位は百万円
非常にキレイなCF計算書です。
稼ぎ出した営業CFの規模によって適切に投資CFをコントロールしているみたいなのでお手本のように堅実な経営をしていると言えそうです。
会社の成長性を測る指標

※単位は百万円
売上はそこまで変化していないものの、純利益と営業CFは毎年10%以上上昇していっています。
なのでここ数年で「会社として成長してきている」というよりは「会社として成熟してきている」と表現する方が適切かもしれません。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。

ROEの水準は普通ですが、年々上昇しているのでやはり会社としては成熟しているのではないかと思います。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)

※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
とても計画的に設備投資をしていることが数字のキレイな並びから想像出来ます。
ただなんだかんだで営業CFの44%くらいを設備投資に回さなければならないので効率が良い商売とは言えないです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移

※単位は百万円
赤字になってはいないものの、各数値の落ち込み方がかなりひどいことからリーマンショックの影響をモロに受けていたことがわかります。
景気には大分左右されるようです。
まとめ
これまでダイキンを数字で見てきたことをまとめると、
- ・メイン事業は「空調・冷凍機」
- ・個人技では「化学」が強い
- ・海外売上比率70%超のグローバル企業
- ・財務は割と健全
- ・お手本のように堅実な経営
- ・近年では「会社として成長してきている」というより「会社として成熟している」という印象が強い
- ・お金の使い方は普通だが、上手くなってきている
- ・景気の影響はモロに受けるがやり過ごすことは出来そう
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
会社全体として見るといわゆる「優良企業」な点
この会社は「財務は健全」「経営は堅実」「地域別売上があまり特定の地域に偏っていないため地政学リスクが分散出来ている」「ROEは現状で及第点レベルかつ近年は上昇傾向にある」というように優良企業の条件がこれでもかというほど揃っています。
唯一「業績が景気変動の影響を強く受ける」という弱点がありますが、それでもその影響をやり過ごせるだけの体力は十分有しているように思えます。
なのでこの会社にはどちらかと言うと仕事に人生におけるスリルや興奮を求める人よりも生活の安定を求める人の方が向いているように思います。
そういう意味では「この会社で何かを身に着けて独立や転職」という考え方ではなく、「この会社に骨をうずめる」という考え方をしている人の方が会社の水には合っているのではないでしょうか。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。