
はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、京セラを取り上げます。
目次
京セラはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、7つの事業に分けることが出来ます。
- ファインセラミック部品関連事業
- 半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置用部品・情報通信用部品・自動車用部品など
- 半導体部品関連事業
- セラミックパッケージ・有機多層パッケージなど
- ファインセラミック応用品関連事業
- 太陽光発電システム・蓄電システム・医療機器など
- 電子デバイス関連事業
- コンデンサ・コネクタ・水晶部品・液晶ディスプレイなど
- 通信機器関連事業
- スマートフォン・携帯電話・通信モジュール
- 情報機器関連事業
- モノクロ及びカラーのプリンター、複合機・ドキュメントソリューションなど
- その他の事業
- 情報通信サービス事業・エンジニアリング事業・経営コンサルティング事業など
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。

売上 順位
- 1位:情報通信機器
- 2位:電子デバイス
- 3位:ファインセラミック応用品
- 4位:半導体部品
- 5位:通信機器
- 6位:その他
- 7位:ファインセラミック部品
利益 順位
- 1位:半導体部品
- 2位:情報通信機器
- 3位:電子デバイス
- 4位:ファインセラミック
- 5位:ファインセラミック応用品
- 6位:その他
- 7位:通信機器
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:半導体部品
- 2位:通信機器
- 3位:ファインセラミック部品
- 4位:ファインセラミック応用品
- 5位:電子デバイス
- 6位:その他
- 7位:情報機器
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:通信機器
- 2位:その他
- 3位:ファインセラミック部品
- 4位:情報機器
- 5位:ファインセラミック応用品
- 6位:半導体部品
- 7位:電子デバイス
順位をまとめると以下のようになります。

セグメント 総合順位
- 1位:半導体部品
- 2位:情報機器
- 3位:通信機器
- 4位:ファインセラミック部品・ファインセラミック応用品・電子デバイス
- 5位:その他
各セグメントで平均点が割と拮抗していますが、いちおう半導体部品が1位のようです。
ただその他を除いては一長一短みたいな感じなので結果的にどの事業のクオリティも一定に保たれている印象です。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。

※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:通信機器
- 2位:ファインセラミック応用品
- 3位:ファインセラミック部品
- 4位:半導体部品
- 5位:その他
- 6位:情報機器
- 7位:電子デバイス
利益/従業員数 順位
- 1位:ファインセラミック部品
- 2位:半導体部品
- 3位:情報機器
- 4位:ファインセラミック応用品
- 5位:電子デバイス
- 6位:その他
- 7位:通信機器
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:ファインセラミック部品
- 2位:半導体部品
- 3位:情報機器
- 4位:電子デバイス
- 5位:ファインセラミック応用品
- 6位:その他
- 7位:通信機器
順位をまとめると以下のようになります。

従業員1人あたり 総合順位
- 1位:ファインセラミック部品
- 2位:半導体部品
- 3位:ファインセラミック応用品
- 4位:情報機器
- 5位:通信機器
- 6位:電子デバイス
- 7位:その他
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:半導体部品
- 2位:情報機器
- 3位:通信機器
- 4位:ファインセラミック部品・ファインセラミック応用品・電子デバイス
- 5位:その他
チーム力では割と下位に位置していた「ファインセラミック部品・ファインセラミック応用品」が個人技となるとけっこう順位を上げてきていることがわかります。
ですが、チーム力と個人技で総合すると「半導体部品」が数あるセグメントの中でも一番優秀なようです。
どこの国で仕事をしているのか

地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:アジア
- 3位:欧州
- 4位:米国
- 5位:その他
海外売上比率が50%を超えているので海外展開には成功しているようです。
そういう意味ではグローバル企業と見做してよいと思います。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率

財務はスーパー健全で、どこからどう見ても財務的に窮地に陥るような可能性は限りなく低いように思えます。
B:CF計算書

※単位は百万円
お手本のようなキレイなCF計算書です。
経営はとても堅実であることが容易に想像がつきます。
会社の成長性を測る指標

※単位は百万円
ただ問題は売上高および純利益が徐々に減っていっていることです。
経営は健全で堅実だけれども、何がしかの壁にぶつかっていることがわかります。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。

いくら京セラと言えども、お金の使い方はかなり下手なようです。
ROEの計算の分母となる「純資産」が多額なので、それに伴ってROEが低くなるのは理解出来ます。
しかしそれならば配当などの株主還元を手厚くしないとうるさい株主が割って入ってきた時にギャーギャー言われる危険性が高くなると思うので、ちょっとこのお金の使い方はこの会社にとって今後の重要な課題なように思います。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)

※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
やっぱり優秀な経営陣。(資金効率は除く)
経営のコントロールが効いており、毎年稼いだお金の半分以上を自由資金として確保出来ています。
こういう経営のバランス感覚はやはり抜群に良いように思えます。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移

※単位は百万円
売上は徐々に減っていますが、純利益と営業CFはデコボコしていることから「景気の影響を受けはするけれども、大きくは影響を受けない」という感じだと思います。
まとめ
これまで京セラを数字で見てきたことをまとめると、
- ・各事業のクオリティはだいたい同じくらい
- ・得てして言えば「半導体部品事業」が事業としてのクオリティが一番高い
- ・財務は超健全
- ・バランス感覚に非常に優れた、お手本のような堅実な会社経営をしている
- ・ただ成長軌道にはなく、業績が伸び悩んでいる
- ・お金の使い方は下手で、使い道に苦慮している可能性大
- ・景気変動の影響は受けるけれども、その影響はそこまで大きくないように思われる
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
会社の課題から攻める
有報の「経済環境及び対処すべき課題」でこの会社は「情報通信市場」、「自動車関連市場」、「環境・エネルギー市場」、「医療・ヘルスケア市場」の4市場を重点市場と捉えて、既存事業の拡大、及び新規事業の創出を目指していることが書かれています。
ざっくりと言い換えると「いまのところあまり上手く行っていない事業や利益効率が他に比べて悪い事業のテコ入れをすることで、成長を目指します」ということだと思います。
なので会社側の需要に合わせるのならば、上記の4市場に関わる事業セグメントに携わりたいことをアピールするのが有効かと思われます。
そしてその事業は現状の営業利益率とセグメントの内容を鑑みるに「ファインセラミック部品」、「ファインセラミック応用品」、「通信機器」の3つだと想定されます。
新規事業の創出に携わりたいことをアピールする
有報から抽出した数字を鑑みるに、この会社の一番の課題は「豊富な資金の使い道」です。
という訳で競合就活生とのかなり極端な差別化方法&会社の需要にマッチさせる手段として「新規事業の創出に携わりたいこと」をアピールします。
平たく言うと「何か新規事業をしたいので、その眠っている余裕資金を私にちょっと使わせて下さい」という趣旨をオブラートに包んで言い換えてES&面接に臨むわけです。
もちろんそう言うからには何かビジネスプランやアイディアを事前に用意しておく必要があるのでかなり面倒くさい方法ではあります。
なので「事業プランはあるけれども、お金がない」という人にとってはうってつけの会社だと思います。
早い話、京セラを「事業基盤が異常にしっかりしているベンチャーキャピタル」と見做して出資をお願いしに行くようなものです。
なのでベンチャースピリットを持って色んなことにチャレンジしたい人にとってはかなりの穴場になり得るのではないかと思います。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。