
はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、東レを取り上げます。
目次
東レはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、6つの事業に分けることが出来ます。
- 繊維
- 合成繊維製品(糸・綿・織編物・人工皮革等)の製造・販売
- 機能化成品
- 樹脂、フィルム、ケミカル製品及び電子情報材料の製造・販売
- 炭素繊維複合材料
- 炭素繊維・同複合材料の製造・販売
- 環境・エンジニアリング
- 機能膜及び同機器、住宅・建築・土木材料等の製造・販売
- ライフサイエンス
- 医薬品、医療機器、オプティカル製品等の製造・販売
- その他
- 東レリサーチセンター、東レシステムセンターなど
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。

売上 順位
- 1位:繊維
- 2位:機能化成品
- 3位:環境・エンジニアリング
- 4位:炭素繊維複合材料
- 5位:ライフサイエンス
- 6位:その他
利益 順位
- 1位:繊維
- 2位:機能化成品
- 3位:炭素繊維複合材料
- 4位:環境・エンジニアリング
- 5位:その他
- 6位:ライフサイエンス
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:環境・エンジニアリング
- 2位:ライフサイエンス
- 3位:繊維
- 4位:炭素繊維複合材料
- 5位:機能化成品
- 6位:その他
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:ライフサイエンス
- 2位:その他
- 3位:環境・エンジニアリング
- 4位:炭素繊維複合材料
- 5位:繊維
- 6位:機能化成品
順位をまとめると以下のようになります。

※下位項目を赤字で示しています。
※偏差値を併記しておきます。偏差値の平均は50です。
セグメント 総合順位
- 1位:繊維(偏差値:56)
- 2位:環境・エンジニアリング(偏差値:54)
- 3位:ライフサイエンス(偏差値:50)
- 4位:機能化成品(偏差値:49)
- 4位:炭素繊維複合材料(偏差値:49)
- 5位:その他(偏差値:43)
イメージ通りに「繊維」がセグメント総合では1位になっていますが、2位の「環境・エンジニアリング」との差はほとんどありません。
そして3位~4位に関しては差は更に微々たるものになっています。
そういう意味ではこの会社は特に劣後したセグメントはあまりなく、バランスが取れていると言えるでしょう。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。

※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:機能化成品
- 2位:環境・エンジニアリング
- 3位:繊維
- 4位:炭素繊維複合材料
- 5位:ライフサイエンス
- 6位:その他
利益/従業員数 順位
- 1位:炭素繊維複合材料
- 2位:機能化成品
- 3位:繊維
- 4位:環境・エンジニアリング
- 5位:ライフサイエンス
- 6位:その他
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:その他
- 2位:炭素繊維複合材料
- 3位:機能化成品
- 4位:繊維
- 5位:環境・エンジニアリング
- 6位:ライフサイエンス
順位をまとめると以下のようになります。

※下位項目を赤字で示しています。
※偏差値を併記しておきます。偏差値の平均は50です。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:機能化成品(偏差値:59)
- 2位:炭素繊維複合材料(偏差値:57)
- 3位:繊維(偏差値:51)
- 4位:環境・エンジニアリング(偏差値:49)
- 5位:その他(偏差値:45)
- 6位:ライフサイエンス(偏差値:39)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:繊維(偏差値:56)
- 2位:環境・エンジニアリング(偏差値:54)
- 3位:ライフサイエンス(偏差値:50)
- 4位:機能化成品(偏差値:49)
- 4位:炭素繊維複合材料(偏差値:49)
- 5位:その他(偏差値:43)
セグメント総合順位では平均的な存在でいまいちパッとしなかった「機能性化成品」と「炭素繊維複合材料」ですが、個人技では上位に躍り出ています。
細かく見ていくと「機能性化成品」はセグメント総合でも個人技でも売上規模と利益規模が大きいので個人技の評価項目で上位になるのは割と納得感があるのですが、「炭素繊維複合材料」に関してはセグメント総合では売上規模と利益規模があまり大きくないのに対して個人技では上位になっているので、人員配置の規模を大きくしたらセグメント総合での順位も上がる可能性がありそうです。
そしてセグメント総合では上位だった「繊維」「環境・エンジニアリング」は個人技では順位を落としており、「ライフサイエンス」に至っては平均から最下位に沈んでいます。
どこの国で仕事をしているのか

地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:その他アジア
- 3位:欧米他
- 4位:中国
地域ごとに見ると日本が売上トップですが、海外売上比率は5割を超えているのでグローバル展開は成功しているように思えます。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率

流動比率は100%を超えており、自己資本比率に関しても50%近くあるので財務は割と健全なようです。
B:CF計算書

※単位は百万円
毎年営業CFが純利益よりも大きいのはプラス材料ですが、投資CFが営業CFのほとんど全てを食い尽くしているのは「お金を使い過ぎ疑惑」が湧くのであまりよろしくないように見えます。
会社の成長性を測る指標

※単位は百万円
「売上微増」「純利益デコボコ」「営業CF漸減傾向」ということで成長軌道にあるとは言えず、かと言って衰退しているとも言えず、安定期と言った印象です。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。

「微妙に悪い」~「普通」の間に位置しており、どちらかと言えば「普通」に寄っているのでお金の使い方は「平均以下」と言えるでしょう。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)

※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
さきのCF計算書の項目で「設備投資にお金を使い過ぎ疑惑」が湧いていましたが、「使い過ぎ」ではないようです。
ただ「使い過ぎ」ではないものの「かなり使っている」とは言えるので事業継続のコストはかなりかかる事業構造のようです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移

※単位は百万円
営業CFの黒字のみが救いですが、基本的に業績は景気の影響をモロに受けるようです。
まとめ
これまで東レを数字で見てきたことをまとめると、
- ・セグメント間のパワーバランスはそこまで極端な差がない
- ・海外売上比率5割以上のグローバル企業
- ・財務は割と健全
- ・会社は「安定期」に入っている
- ・稼いだお金の8割以上が設備投資で飛んでいく
- ・お金の使い方は「平均以下」
- ・景気の影響をモロに受ける
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
海外での事業に携わりたいことをアピールする
主戦場は日本ですが、海外売上比率が5割を超えていることから「日本以外の地域」も会社にとってかなり重要な市場であることは明白です。
なので会社にニーズにマッチする意味合いでも「海外での事業に携わりたい人」がその旨をアピールするのが双方にとってウィンウィンな関係を築けるのではないかと思います。
「環境・エンジニアリング」&「炭素繊維複合材料」に携わりたいことをアピールする
さきにも確認しましたがこの会社のメイン事業は「繊維」「機能化成品」の2事業です。
この2事業は確かに売上規模・利益規模ともにかなりの存在感があるのですが、ここを狙ってくる競合就活生も多いと思うので敢えてアピールする対象から外し、現状あまり目立たないけれども事業にかかるコストや個人技等を鑑みると事業のクオリティとしてはこの2事業に匹敵する「環境・エンジニアリング」と「炭素繊維複合材料」に携わりたいことをアピールするのが良いのではないかと思います。
「環境・エンジニアリング」の特徴は「コストの割に利益が出る(事業としてのコストパフォーマンスが良い)」ことで「炭素繊維複合材料」の特徴は「事業としての存在感はそこまで無いが、個人技の強さは各事業の中でもトップクラス」ということです。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。