
はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、オリックスを取り上げます。
目次
オリックスはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、6つの事業に分けることが出来ます。
- 法人金融サービス
- 融資事業、リース事業および各種手数料ビジネス
- メンテナンスサービス
- 自動車リース事業、レンタカー事業、カーシェアリング事業、電子計測器・IT関連機器等のレンタル事業およびリース事業
- 不動産
- 不動産開発・賃貸事業、施設運営事業、不動産投資法人(REIT)の資産運用・管理事業、不動産投資顧問業
- 事業投資
- 環境エネルギー事業、プリンシパル・インベストメント事業、サービサー(債権回収)事業、コンセッション事業
- リテール
- 生命保険事業、銀行事業およびカードローン事業
- 海外
- リース事業、融資事業、債券投資事業、アセットマネジメント事業、航空機・船舶関連事業
①どんな仕事の種類があるのか?
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。

※研究開発費は計上しておらず、設備投資費もセグメント別で開示されていないので今回は省略します。
売上 順位
- 1位:事業投資
- 2位:海外
- 3位:リテール
- 4位:メンテナンスリース
- 5位:不動産
- 6位:法人金融サービス
利益 順位
- 1位:海外
- 2位:事業投資
- 3位:リテール
- 4位:不動産
- 5位:法人金融サービス
- 6位:メンテナンスリース
売上では「事業投資」がかなり大きな割合を占めていますが、営業利益となると「海外」がトップに立ちそれ以外のセグメントは割とバランス良く稼いでいることがわかります。
順位をまとめると以下のようになります。

※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
セグメント 総合順位
- 1位:事業投資(偏差値:65)
- 2位:海外(偏差値:62)
- 3位:リテール(偏差値:48)
- 4位:不動産(偏差値:44)
- 5位:メンテナンスリース(偏差値:41)
- 6位:法人金融サービス(偏差値:39)
総合では「事業投資」「海外」がスバ抜けた数値を叩き出しています。
そして一般的には「オリックス=リース会社」というイメージがあるかと思うのですが、リースに該当する「メンテナンスリース」「法人金融サービス」はセグメントの中ではあまりクオリティが高くないということになっています。
数字で見るとどちらかと言うと「投資会社」という印象です。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。

※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:リテール
- 2位:事業投資
- 3位:メンテナンスリース
- 4位:海外
- 5位:法人金融サービス
- 6位:不動産
あまり目立っていなかった「リテール」が1位となっており、「事業投資」と「海外」は順位を落としています。
利益/従業員数 順位
- 1位:リテール
- 2位:法人金融サービス
- 3位:メンテナンスリース
- 4位:海外
- 5位:不動産
- 6位:事業投資
ここでも「リテール」が1位となっており、セグメント総合で下位ランカーだった「法人金融サービス」と「メンテナンスリース」が上位にランクインしています。
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:法人金融サービス
- 2位:不動産
- 3位:海外
- 4位:リテール
- 5位:メンテナンスリース
- 6位:事業投資
営業利益率では「法人金融サービス」が1位となっており、「事業投資」は最下位ということになっています。
順位をまとめると以下のようになります。

※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:リテール(偏差値:68)
- 2位:法人金融サービス(偏差値:56)
- 3位:メンテナンスリース(偏差値:49)
- 4位:海外(偏差値:47)
- 5位:不動産(偏差値:44)
- 6位:事業投資(偏差値:36)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:事業投資(偏差値:65)
- 2位:海外(偏差値:62)
- 3位:リテール(偏差値:48)
- 4位:不動産(偏差値:44)
- 5位:メンテナンスリース(偏差値:41)
- 6位:法人金融サービス(偏差値:39)
セグメント総合ではあまり目立たなかった「リテール」が個人技では圧倒的な強さを発揮して総合1位となっています。
そしてセグメント総合では下位ランカーだった「法人金融サービス」と「メンテナンスリース」は個人技では上位に食い込んでいるところを見ると、個人技ベースでは「リース会社」と言えなくもなさそうです。
逆に「海外」と「事業投資」は個人技では下位にランクインしているので、この会社は全体的に個人技が強い事業には人員を投下せず、個人技が弱い事業に人員を投下することでバランスを取っているように見えます。
②どこの国で仕事をしているのか

地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:その他海外
- 3位:米州
思いっきりドメスティックな会社のようです。
③会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率

※金融関係の会社は「流動資産」と「流動負債」を計上していないので、「流動比率」は今回は省略します。
金融関連の会社ということもあり、自己資本比率は割と低めになっています。
金融関連の会社の自己資本比率が押し並べて低めな理由は、負債の部に多額の顧客からの預かり資産などが計上されているからです。
B:CF計算書

※単位は百万円
営業CFには常時5,000億円以上が計上されており、投資CFもだいたいその内々で収まっています。
ただ2018年度の財務CFでけっこうな額のプラスが発生しているので、一概に堅実な経営をしているとは言い難い印象です。
④会社の成長性を測る指標

※単位は百万円
売上高・純利益ともに徐々に増加しているので成長軌道に乗っているようです。
ただし純利益率は3年でそこまで変わっていないため、「質の成長」はあまりしておらず、どちらかと言うと「質を落とさずに規模を成長させている」という感じになると思います。
⑤投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。

お金の使い方は普通のようです。
自己資本比率の低さから言うともうちょっと欲しい気はします。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)

※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
思いっきりお金を設備投資に使っていることがわかります。
事業投資にリースサービスに、はたまた不動産事業まで行っているためお金がかかるのは仕方がないとは言え、ちょっとどうかと思うほどお金を使いまくっている印象です。
そういう意味では効率は割と悪い商売をしているように思います。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移

※単位は百万円
各数値アップダウンをしているので一概に不況に弱いとは言い難いですが、売上高は一貫して下がっているので景気の影響は割と強く受けるようです。
⑥まとめ
これまでオリックスを数字で見てきたことをまとめると、
- ・稼ぎ頭は「事業投資」と「海外」
- ・個人技は「リテール」「法人金融サービス」が強い
- ・個人技が弱いセグメントは人員投下によってチーム力を高めてカバーし、個人技が強いセグメントはあまり人員投下をしていない
- ・かなりドメスティックな会社
- ・自己資本比率は金融関連の会社としては平均的
- ・商売自体の効率はどちらかと言うと悪い
- ・お金の使い方は普通(どちらかと言うと下手)
- ・「質」を落とさずに「規模」を成長させることに成功している
- ・景気の影響は割と強く受ける
ということになるでしょう。
⑦ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「リテール」を攻める
チーム力は「事業投資」と「海外」が圧倒的に強いことを見てきましたが、個人技に置き換えると実はこの2つの事業は弱く、人員投下によってカバーしていることがわかっています。
そういう意味では個人技最強の「リテール」が会社の中で最も効率の良い事業であると言えるでしょう。
なので会社側の需要もそこにあると考えて、面接やESでは「リテールに携わりたいこと」をアピールするのが競合就活生との差別化という面でも有効なのでないかと思います。
「事業投資」を攻める
個人技ではその弱さを露呈してしまった「事業投資」ですが、その投下人員数の多さによって会社の稼ぎ頭となっていることも事実です。
なのでこちらはこちらで会社側の需要があるということも容易に想像出来るので、面接やESでは「事業投資に携わりたいこと」をアピールするのが有効なのではないかと思います。
そういう意味では「リース会社に就職する」というよりも「投資会社に就職する」というつもりでこの会社の就活に臨んだ方が良いように思います。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。