
はじめに
ここでは日本の大手人材紹介会社の
- ・リクルートHD(以下:リクルート)
- ・パソナグループ(以下:パソナ)
- ・テンプHD(以下:テンプ)
の3社を有価証券報告書に記載されている事柄から比較することで、イメージではなくその企業ひいてはその業界の「事実」の確認が出来ればと思っています。
※リクルートの競合「マイナビ」は決算書は公表されていますが非上場であり、なおかつセグメントやCF計算書などの細かい情報が不足しているために直接の比較対象として含めていません。
なので各項目に参考情報として記載出来るところは記載するという形に留めてあります。
目次
主要子会社・関連会社の比較

事業規模の比較(単位:百万円)

※マイナビは「2017年度ー売上高:121,223百万円・純利益:14,461百万円」です
売上 順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
純利益 順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
「SUUMO」や「じゃらん」「ホットペッパー」などによる売上も込みではありますが、それらを除いても事業規模においてはリクルートが圧倒的な1位です。
単純比較でテンプはリクルートの3分の1以下の規模で、パソナにいたってはリクルートの6分の1以下の規模なので、この業界におけるリクルートの巨人ぶりが一目瞭然です。
安全性の比較

※マイナビは「3年平均ー流動比率:176.2%・自己資本比率:59.5%」です
流動比率 順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
自己資本比率 順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
財務の健全性においてもリクルートが圧倒的に健全です。
短期の資金繰りも長期の資金繰りも競合と比べてかなり余裕があります。
パソナは割と財務的に弱そうな印象です。
利益性の比較

※マイナビは「3年平均ー純利益率:11.3%・在庫なし」です
純利益率 順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
ネットFCF 順位
- 1位:テンプ
- 2位:リクルート
- 3位:パソナ
実質設備投資/営業CF 順位
- 1位:テンプ
- 2位:パソナ
- 3位:リクルート
在庫回転率 順位
- 1位:パソナ
- 2位:リクルート
- 3位:テンプ
事業規模と財務の健全性で圧倒的な強さを見せてきたリクルートですが、純利益率で1位にランクインしているもののテンプに差を詰められており、ネットFCFにいたってはけっこうな差をつけられてテンプに1位の座を明け渡しています。
その理由は他の2社の約2倍近くになる多額の設備投資費用にあるようです。
売上・純利益ともに多額を稼ぎ出してはいるものの、直近3年間平均でそのほとんど全てを設備投資や買収に注ぎ込んでいるため、手元に残る自由資金はかなり少なくなっています。
ちなみに在庫回転率の項目ですが、リクルートとテンプの数値が「0」となっているのはそもそも在庫を持たないビジネスだからです。
単純比較のために在庫を持つビジネスのパソナを1位としてありますが、在庫をハケさせる必要のないビジネスと在庫をハケさせなきゃならないビジネスでは個人的には前者の方が魅力的に感じます。
コスト&研究開発費の比較

※マイナビは「3年平均ー販管費/売上:47.4%・研究開発費なし」です
販管費/売上 順位
- 1位:テンプ
- 2位:パソナ
- 3位:リクルート
研究開発費/売上 順位
※各社研究開発費を計上していないので省略します。
コスト面でもリクルートは他の2社と比べてかなりお金を使っているようです。
それだけ従業員に対する金銭的な待遇が厚いのか、はたまた他のところにお金がかかるのか。
いずれにせよ会社としてのコスト効率は他の2社と比べて圧倒的に悪いということがわかります。
従業員1人あたりの売上&利益の比較

売上/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:リクルート
- 2位:パソナ
- 3位:テンプ
営業利益/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
1人あたり営業利益/売上 順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
売上においてはリクルート・パソナ・テンプにそこまで極端な差はついていませんが、営業利益と利益効率になるとリクルートの圧勝です。
リクルートはパソナ・テンプと同じ業界とは思えないほど圧倒的な利益効率を有していることがわかります。
事業セグメントの比較
リクルート



※販促メディア:SUUMO、ゼクシィ、カーセンサー、じゃらん、ホットペッパーなど
人材メディア:リクナビ、リクナビNEXT、リクルートエージェント、フロムエー、タウンワーク、Indeedなど
人材派遣:リクルートスタッフィングなど
その他:ニジボックス
「人材派遣」が売上の半分以上を占めていますが、営業利益となると話は変わってきて「販促メディア」がかなり大きな部分を占めていることがわかります。
ただ「人材メディア」と「人材派遣」の人材紹介系セグメントの営業利益を足し合わせると営業利益全体の6割以上を占めることになるので、人材紹介の会社というイメージは間違いではないようです。
パソナ



※アウトソーシング:ベネフィット・ワン、ベネフィットワン・ヘルスケアなど
その他:パソナふるさとインキュベーション、パソナ東北創生など
売上こそ「人材派遣、委託・請負」が大半を占めるのですが、営業利益は子会社のベネフィット・ワンが担当するセグメントの「アウトソーシング」の貢献度が5割を超えており、人材紹介系のセグメントと営業利益を折半している形になっています。
そしてメインの3事業の中で「人材派遣、委託・請負」は利益率が異常に低く、あんまりおいしいビジネスではないことがわかります。
逆に言えばもしこの「人材派遣、委託・請負」の利益率が改善したら全社的にかなりのインパクトをもたらすと思います。
テンプ



※派遣・BPO:テンプスタッフなど
ITO:インテリジェンスビジネスソリューションズなど
エンジニアリング:日本テクシードなど
リクルーティング:an、LINEバイト、DODAなど
この会社は売上も営業利益も「派遣・BPO」と「リクルーティング」でほとんど全てを稼ぎ出しているようです。
ただ利益効率に目をやると他の2社と違って飛びぬけて利益効率が良いセグメントはないものの、各セグメントでバランスよく稼いでいることがわかります。
ちなみに3社の海外売上比率は以下になります。

積極的にM&Aをするなどして、リクルートが海外展開では一歩先んじているようです。
まとめ
これまで見てきた 社の順位を「利益性」「コスト」「安全性」「チーム力」「個人技」の括りで下記します。
(総合点と平均が低ければ低いほど各項目について「優れている」ということになります。)

利益性 総合順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
お金の使いすぎが玉にキズですが、それでもリクルートがトップです。
テンプ・パソナは安定して2位・3位フィニッシュです。

コスト 総合順位
- 1位:テンプ
- 2位:パソナ
- 3位:リクルート
コスト効率ではテンプが圧倒的な1位で、リクルートは3位に後退しています。

安全性 総合順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
一目瞭然で3社の中ではリクルートの財務の健全性が良いことがわかります。

チーム力 総合順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
ここもキレイに1位・2位・3位とフィニッシュしています。

個人技 総合順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
ここでもキレイに1位・2位・3位のフィニッシュ
「利益を稼ぎ出す」ということに関してはリクルートは負けないようです。

総合順位
- 1位:リクルート
- 2位:テンプ
- 3位:パソナ
順当に1位になったリクルートですが、設備投資とコストの負担の大きさが響いて総合点では圧倒的な1位とは呼び難い状況です。
それよりもテンプがけっこう善戦しているということが割と目立ちます。
パソナはこれまた順当に3位です。
各社の特徴をまとめると以下のようになります。
リクルート
- 利益性:1位
- コスト:3位
- 安全性:1位
- チーム力:1位
- 個人技:1位
- 総合:1位
- ・3社の中ではあらゆる面で「稼ぐ力」が飛びぬけて強い
- ・設備投資やコストの負担が3社の中では一番大きい
- ・色んな事業を有しているが、なんだかんだで「人材紹介」がメイン事業
パソナ
- 利益性:3位
- コスト:2位
- 安全性:3位
- チーム力:3位
- 個人技:3位
- 総合:3位
- ・大手だが大手の中では安定の3位
- ・「人材派遣」が売上の大半を占めるが、その利益効率は非常に悪い
- ・全体的に事業の利益効率を上げることが出来れば会社として更に化けそうなポテンシャルを秘めている
テンプ
- 利益性:2位
- コスト:1位
- 安全性:2位
- チーム力:2位
- 個人技:2位
- 総合:2位
- ・事業規模や稼ぐ力ではリクルートに遠く及ばないが、会社としての総合的なクオリティはリクルートに引けを取らない
- ・飛びぬけて良い事業がない代わりにどの事業もそれなりに稼げており、事業ポートフォリオ全体は3社の中で一番バランスが取れているとも言える
志望動機として使えそうな点
リクルート
誰がどう見ても業界最大手な点
イメージ的にも数字的にもこの会社が日本の人材紹介会社の中では最大手です。
おまけに財務も安定しています。
なので「最大手の看板を背負って働きたい」という人や「安定した会社で働きたい」という人のような「大手志向」を持った人にとっては最適な会社であると思います。
事業が多種多様であること
メイン事業は「人材紹介」ではありますが、それと同じくらい「販促メディア」もメイン事業として並列しています。
なので「色々な仕事に挑戦してみたい」という人にとっては最も向いているかもしれません。
パソナ
やり方次第で今後大きく化ける可能性があること
数字を見る限りでは他の2社と比べて圧倒的に劣るこの会社ですが、これまで見てきた通り事業の利益効率などが何かしらの方法で変われば大きく化ける可能性があると思います。
いま現在利益の面で子会社のベネフィット・ワンに頼り過ぎている部分が大きいことはおそらく経営陣も気付いているハズなので、会社としても「既存の事業のテコ入れ」か「利益が出る新規事業の創出」などをしていくことが想定されます。
そういう意味では大手の中でも変革期に差し掛かっていると思われるので、「自分の活躍で会社の成長に貢献していく実感が持ちたい人」や「既存事業の強みを生かした新規事業の創出に携わりたい人」などには最も向いているかもしれません。
テンプ
「派遣・BPO事業」が売上・営業利益ともに稼ぎ頭な点
この会社が他の2社と比べて明らかに異なっているのは、「派遣・BPO事業がメイン事業として会社を成り立たせていること」です。
つまりは「人材紹介や他の事業ではなく、純粋に人材派遣の仕事に携わりたい」という人にとっては会社側の需要を考えても打ってつけの会社ということになると思います。
会社としての総合的なクオリティでは最大手のリクルートに引けを取らない点
「お金を稼ぐ」という点ではリクルートに全く歯が立ちませんが、コスト効率やそれ以外のことを含めた会社としての総合的なクオリティという点ではリクルートに引けを取らない優良企業ということになっています。
なのでもしリクルートの情報を集めたり人に会ったりした上で「リクルートは自分に合わない。けども人材系の優良企業で働きたい。」と思った人にとっては最も向いているかもしれません。
これまでまとめてきた事項は数字を元にした会社の実態ではありますが、より正確に実態を掴むためにも説明会で質問してみたり実際に社員の人に会ったりして、調べた情報とズレていないかどうかを確認してみた上で、ESや面接で使用することをおすすめします。