はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、コマツを取り上げます。
目次
コマツはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、3つの事業に分けることが出来ます。
- 「建設機械・車両」
- 掘削機械、積込機械、整地・路盤用機械、運搬機械、林業機械、地下建設機械、地下鉱山機械、資源リサイクル機械、産業車両、鉄道メンテナンス機械、エンジン・機器、鋳造品、物流関連
- 「リテールファイナンス」
- 建設・鉱山機械のリース、割賦
- 「産業機械他」
- 鍛圧機械、板金機械、工作機械、弾薬、装甲車、温度制御機器、半導体露光装置用エキシマレーザー
①どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
売上 順位
- 1位:建設機械・車両
- 2位:産業機械他
- 3位:リテールファイナンス
利益 順位
- 1位:建設機械・車両
- 2位:産業機械他
- 3位:リテールファイナンス
売上・利益ともに「建設機械・車両」の貢献度が明らかに高いことから、この会社の稼ぎ頭であると言えます。
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:リテールファイナンス
- 2位:産業機械他
- 3位:建設機械・車両
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:産業機械他
- 2位:リテールファイナンス
- 3位:建設機械・車両
ただ「建設機械・車両」は稼ぎ頭であると同時に研究開発費・設備投資費のほとんどを使ってしまっています。
「産業機械他」と「リテールファイナンス」は一長一短といった感じです。
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
セグメント 総合順位
- 1位:産業機械他(偏差値:60)
- 2位:建設機械・車両(偏差値:53)
- 3位:リテールファイナンス(偏差値:37)
「建設機械・車両」は絶対的な売上・利益の貢献度は高いのですが、その分研究開発費・設備投資費がかかっており、それも含めコストパフォーマンスはそこまで高くないようです。
そしてコストパフォーマンスという面で言えば「産業機械他」が事業の中で最も優れているということになっています。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:リテールファイナンス
- 2位:産業機械他
- 3位:建設機械・車両
利益/従業員数 順位
- 1位:リテールファイナンス
- 2位:建設機械・車両
- 3位:産業機械他
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:リテールファイナンス
- 2位:建設機械・車両
- 3位:産業機械他
「リテールファイナンス」は事業としてのコストパフォーマンスは最低でしたが、純粋な個人技で行けばいずれの項目も2位以下を大きく引き離して圧勝しています。
そしてチームとしての売上・利益貢献度ではかなりの差があった「建設機械・車両」と「産業機械他」ですが、個人技に置き換えると両者にそこまで極端な差はないようです。
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:リテールファイナンス(偏差値:64)
- 2位:建設機械・車両(偏差値:44)
- 3位:産業機械他(偏差値:42)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:産業機械他(偏差値:60)
- 2位:建設機械・車両(偏差値:53)
- 3位:リテールファイナンス(偏差値:37)
結果として個人技では「リテールファイナンス」の圧勝です。
「建設機械・車両」と「産業機械他」も合わせてセグメント総合順位と照らし合わせてみると、チーム力の順位と個人技の順位がキレイにひっくり返っていることがわかります。
②どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:米州
- 2位:日本、アジア・オセアニア
- 3位:欧州・CIS
- 4位:中国、中近東・アフリカ
割と色々な地域に売上が分散されていることがわかります。
このことから日本は市場としては依然大きいものの必ずしもメイン市場ではなく、それよりもこの会社の主戦場は海外にあることがわかります。
③会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
流動比率・自己資本比率ともにまあまあの水準を達成しているので、財務の健全性という意味では割とマトモな会社と言えるでしょう。
B:CF計算書
※単位は百万円
2016~2017年度は営業CFの内々で投資を行っており財務CFもちゃんとマイナスになっていますが、2018年度に入ってかなり投資CFのマイナスが大きくなるとともに財務CFもプラスになっています。
これは2017年4月にアメリカの大手鉱山機械メーカーのジョイ・グローバル社を買収したことが大きな要因となっています。
④会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
2016年度→2017年度にかけて売上・純利益ともに減少していたのがジョイ・グローバル社買収の効果で2018年度に入って両数値とも急伸しています。
ただそれは自立成長という意味では疑問符が付くことから、少なくとも成長軌道に乗っているとは言い難いような状態です。
⑤投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
買収効果もあり2018年度にはROEが高まっていますが、それにしても水準としては「普通」ということになるでしょう。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
普通に設備投資をするだけであれば2016~2017年度の1千数百億円で済んでいるようなので自由資金はそこそこ多く残せているようですが、2018年度に多額の買収費用を計上しているのでそれまでの2年間で蓄えた自由資金を吹き飛ばしています。
兎にも角にも去年はかなり大胆な経営判断を行っていたことがわかります。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
赤字にはなってはいないものの、年を追うごとにわかりやすく売上・純利益ともに急減していることから、景気の影響はかなり強く受けるようです。
⑥まとめ
これまでコマツを数字で見てきたことをまとめると、
- ・稼ぎ頭は「建設機械車両」
- ・事業としてのコストパフォーマンスは「産業機械他」が一番良い
- ・個人技は「リテールファイナンス」が圧倒的に強い
- ・主戦場は海外
- ・財務基盤はまとも
- ・おそらく自立成長は出来ていない
- ・直近ではかなり大胆な経営をしている
- ・お金の使い方は普通
- ・景気の影響はかなり強く受ける
ということになるでしょう。
⑦ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「リテールファイナンス」を攻める
稼ぎ頭は「建設機械・車両」であり、コストパフォーマンスは「産業機械他」が一番良いことを確認してきましたが、その実個人技はと言うとこの2つの事業はどっこいどっこいでしかもそこまで強くなく、個人技で最強だったのが「リテールファイナンス」だということを確認してきました。
要はリテールファイナンスは投下人員数を多くしても尚その個人技のクオリティを保つことが出来れば、近年自立成長をしているとは言い難いこの会社に新たな成長要素をプラスすることが出来るのではないかと思います。
そして競合就活生との差別化を図るという面においても、ESや面接では「リテールファイナンス」に携わりたいことをアピールすることが有効なのではないかと考えます。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。