はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、クロネコヤマトでおなじみのヤマトHDを取り上げます。
目次
ヤマトHDはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、7つの事業に分けることが出来ます。
- デリバリー
- 宅急便など
- BIZ-ロジ
- ロジスティクス、国際貨物一貫輸送サービスなど
- ホームコンビニエンス
- 家財・家電の集配、引っ越し・生活関連サービスなど
- e-ビジネス
- システム開発、物流情報サービスなど
- フィナンシャル
- ネット総合決済サービス、企業間流通決済サービスなど
- オートワークス
- 車両整備事業、燃料販売、損害保険代理店事業など
- その他
- JITBOXチャーター便、シェアードサービス
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
売上 順位
- 1位:デリバリー
- 2位:BIZ-ロジ
- 3位:フィナンシャル
- 4位:e-ビジネス
- 5位:その他
- 6位:ホームコンビニエンス
- 7位:オートワークス
利益 順位
- 1位:その他
- 2位:デリバリー
- 3位:e-ビジネス
- 4位:フィナンシャル
- 5位:BIZ-ロジ
- 6位:オートワークス
- 7位:ホームコンビニエンス
売上と利益の構成を見るとデリバリー事業がメイン事業であることがわかります。
しかし利益構成だけ見てみるとその他の事業が大きな割合を占めている、というか利益構成比では1位になっています。
研究開発費 順位
各セグメント研究開発費を計上していないので省略します。
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:ホームコンビニエンス・オートワークス・その他
- 2位:e-ビジネス
- 3位:BIZーロジ
- 4位:フィナンシャル
- 5位:デリバリー
順位をまとめると以下のようになります。
セグメント 総合順位
- 1位:その他
- 2位:デリバリー
- 3位:e-ビジネス
- 4位:BIZ-ロジ
- 5位:フィナンシャル
- 6位:ホームコンビニエンス・オートワークス
設備投資費用も含めるとその他事業が「稼ぎの割にコストがかからない」優良事業でこの会社の中では最もクオリティが高い事業であることがわかります。
そしてデリバリー事業は売上貢献度と利益貢献度の大きさから順当に2位になっていますが、3位と4位とクオリティとしてはそこまで極端に変わらないことが確認出来ます。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:フィナンシャル
- 2位:オートワークス
- 3位:BIZ-ロジ
- 4位:e-ビジネス
- 5位:ホームコンビニエンス
- 6位:その他
- 7位:デリバリー
利益/従業員数 順位
- 1位:フィナンシャル
- 2位:その他
- 3位:e-ビジネス
- 4位:オートワークス
- 5位:BIZ-ロジ
- 6位:ホームコンビニエンス
- 7位:デリバリー
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:その他
- 2位:e-ビジネス
- 3位:フィナンシャル
- 4位:オートワークス
- 5位:BIZ-ロジ
- 6位:デリバリー
- 7位:ホームコンビニエンス
順位をまとめると以下のようになります。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:フィナンシャル
- 2位:その他・e-ビジネス
- 3位:オートワークス
- 4位:BIZ-ロジ
- 5位:ホームコンビニエンス
- 6位:デリバリー
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:その他
- 2位:デリバリー
- 3位:e-ビジネス
- 4位:BIZ-ロジ
- 5位:フィナンシャル
- 6位:ホームコンビニエンス・オートワークス
事業としてのクオリティは高かったデリバリー事業ですが、個人技では最下位になっており、この分野ではフィナンシャル事業が圧倒的な強さを誇ることがわかります。
そしてなんだかんだでここでも高い効率性を示すその他事業です。
対してチーム力と個人技の2項目を見比べてもホームコンビニエンス事業は会社にとってあまり効率がよろしくない事業だということがわかります。
これが効率良い事業ならば会社としてももっと力を入れており、俗に言う「引っ越し難民」は今世間で言われているよりも少なくなっていたのではないでしょうか。
どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:その他
- 3位:北米
思いっきりドメスティックな企業だということが一目瞭然です。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
2つの比率を見てみると財務の健全性という意味では「普通の会社」といった感じです。
B:CF計算書
※単位は百万円
営業CFの方が純利益よりも恒常的に多いので見た目よりも資金は豊富に持っているようです。
財務CFも毎年マイナスなので払うものはしっかり払っているようなので健全な経営をしていると思うのですが、投資CFを見るとけっこうな額を使っていることがわかります。
会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
純利益と営業CFはデコボコしているので一概には言えませんが、売上高が徐々に増えていっていることを見ると、事業規模の拡大には成功しているようです。
ただ中身があまり伴っていない印象を受けます。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
とりあえず平均以下のお金の使い方しか出来ていないということで間違いはなさそうです。
ROE重視の時代の雰囲気にほぼ完全に逆行している感じです。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
さきほどのCF計算書の項目で「お金を使い過ぎなんじゃないか疑惑」が持ち上がっていましたが、実質設備投資を見てみると概ね営業CFの50%程度で抑えていることが確認出来ます。
つまりは有価証券の買い付けなどで投資CF全体のマイナスが膨らんでおり、自由資金自体は割と手堅く残しているということだと思います。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
そこまで極端に数値が落ち込んでいる訳ではありませんが、少なくとも景気の影響は受けるには受けるようです。
まとめ
これまでヤマトHDを数字で見てきたことをまとめると、
- ・デリバリー事業は主力ではあるが、チーム力と個人技双方とも「その他事業」の方が事業としてのクオリティが高い
- ・海外進出はほとんどしていない
- ・財務の健全性は普通
- ・事業規模は拡大傾向にあるが、あまり中身は伴っていないように思える
- ・経営は堅実
- ・景気の影響を受けるには受けるが、そこまで大きく影響されない
- ・お金の使い方はどちらかというと下手
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
順当に「その他事業」に携わりたいことをアピールする
おそらく大半の競合就活生が「デリバリー事業」に携わることを想定してESや面接に臨んでくると思いますが、この会社にとって総合的にクオリティが最も高くて最も効率的な事業は「その他事業」であることをこれまでに確認してきました。
なので差別化を図り、なおかつ会社側の需要に応える意味合いも込みで「その他事業に携わっていきたいこと」をアピールするのが最も効率の良い戦い方なのではないかと考えます。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。