はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、いわゆる就活生に人気の上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、東京海上ホールディングス(以下:東京海上)を取り上げます。
目次
東京海上はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書(2017年3月提出分)から抜粋すると、4つの事業に分けることが出来ます。
- 国内損害保険事業
- 損害保険業、少額短期保険業
- 国内生命保険事業
- 生命保険業
- 海外保険事業
- 損害保険業、生命保険業
- 金融・一般事業
- 投資顧問業、投資信託業
とのことです。
どんな仕事の種類があるのか?
有価証券報告書によると、各セグメントの経常収益(売上)割合は以下の通り
3年間平均で売上に占める割合が大きいのは上から順に
- 1位:国内損害保険
- 2位:海外保険
- 3位:国内生命保険
- 4位:金融・一般
ということになっています。
しかし、一般的には企業が追求するのは売上ではなく利益です。
そこで企業の最終的な利益を示す純利益の項目における各セグメントの割合を見ていきましょう。
ここでの順位付をすると
- 1位:国内損害保険(売上:1位)
- 2位:海外保険(売上:2位)
- 3位:国内生命保険(売上:3位)
- 4位:金融・一般(売上:4位)
売上と利益の順位が変わりがないようです。
国内損害保険は売上よりも利益の比率の方が高いので商売の効率が良く、国内生命保険は売上よりも利益の比率が低いので商売の効率は良くないようです。
ここで国内損害保険事業の内訳を見てみましょう。
- 1位:自動車保険
- 2位:火災保険
- 3位:その他
- 4位:自動車損害賠償責任保険
- 5位:傷害保険
- 6位:海上保険
メインの国内損害保険事業ですが、会社名にも付いている「海上保険」から入ってくる保険料は最も少なく、「自動車保険」から入ってくる保険料が圧倒的に多いことがわかります。
つまりはみなさんが入社して配属される際には上記のランキング順に配属される可能性が高いと言えるかもしれません。
どこの国で仕事をしているのか
直近3年間の順位付けをすると、
- 1位:日本
- 2位:米国
- 3位:その他
やはり日本が収益の過半を占めるメイン市場であるようですが、海外でも割と頑張っているようです。
会社の安定性を測る指標
- A:ソルベンシーマージン比率
- B:自己資本比率
- C:CF計算書
A:ソルベンシーマージン比率
ソルベンシーマージン比率の計算式はざっくり表すと以下のようになります。
ソルベンシーマージン比率= 会社が支払える金額 ÷ 万が一の事態が発生した時に想定される支払い保険料額
つまりはこの比率が100%を下回っていると、契約者としては保険料を保険会社に支払ったけれども、いざそういう事態になった時に保険会社は約束の保険金額を契約者に支払えないということになります。
この会社の2017年度で見ると「2017年度の1年間に特殊なトンデモナイ事態が7回発生したとしても約束の保険金額は全て支払える」ということになるので保険会社としては信用出来るということになるでしょう。
B:自己資本比率
グループ全体連結
自己資本比率は低いですが、負債の内ほぼ全てが「支払いの為にとってある保険料」なので、支払い義務が生ずる事態が起きなければその分は会社のもの、つまりは純資産に移り変わることになります。
C:CF計算書
CF計算書はどうなっているかというと、
基本的には大幅に営業CF>純利益となっているので見た目以上に稼いでいるようです。
ただ直近2年間は投資CFでお金を使っているようです。
細かいことは後のネットFCFで見てみましょう。
会社の成長性を測る指標
経常収益・純利益ともに順調に増えていっていることから成長軌道に乗っていると言えます。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
全体的には成長軌道にあって営業CFも多い優良な会社なのですが、効率と言う面で行くと投資家から預かったお金をあまり上手く使えていないようです。
それこそ自己資本比率が10%台ということを考えるとこのROEの数値はかなり低いです。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
さきのCF計算書の項目で投資CFの詳細について触れましたが、どうやら会社の買収以外ではあまりお金を使っていないようです。
ではなぜ2017年度が大幅な投資CFのマイナスになっているのかと言うと、それは「有価証券を大量に買ったから」です。
ご存知の方も多いかもしれませんが、ここで保険会社のビジネスモデルに触れます。
保険会社は契約者から受け入れた保険料をただ預金として寝かせておくのではなく、それを原資として国債や社債や株式などの有価証券を買い付けて資産運用をしています。
そうすると何が起こるのかと言うと、受け入れた保険料は義務がある期間は保険契約者のものになりますが、運用して得た利益は契約者のものでなく会社のものになります。
ざっくり言うと「他人からお金を借りて、それを原資に投資をしている」ということです。
という訳で有価証券の売買は保険会社の仕事の中でも結構重要な部分なので、売りよりも買いが多ければ投資CFではマイナス計上されますし、逆に買いよりも売りの方が多ければプラス計上されます。
要は保険会社の塩梅次第で投資CFはマイナスにもプラスにも振れるので、基本的に実質設備投資でお金を使い過ぎていなければどうとでもなるということです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
リーマンショック時の成績の推移ですが、営業CFはプラス圏内ではありますがガタガタになっていることから、不況になった時には会社の根幹を揺るがすような大惨事にはならないけれども少なくとも影響は受ける、ということになるでしょう。
まとめ
これまで東京海上を数字で見てきたことをまとめると、
- ・国内:海外=2:1の割合で稼いでいる
- ・自動車関連の損害保険料の受け入れが圧倒的に多い
- ・会社は成長軌道に乗っている
- ・投資家から預かったお金の使い方は上手くない
- ・設備投資にはほとんどお金がかからない
- ・不況時には影響を受けるが、そこまで深刻化する可能性は低い
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
まず会社側の需要を整理すると、
- ・海外展開を進めていきたい
- ・自動車関連の保険料収入が事業の肝なので安定&成長させていきたい
となります。
次に就活生のみなさんがこの会社に入った時に期待出来ることを整理すると、
- ・海外で働ける可能性が割とある
- ・自動車関連の損害保険を扱う仕事に関われる可能性が一番高い
となります。
上記から導き出されるキーワードは
- ・「海外での仕事」
- ・「自動車関連の損害保険を扱う仕事」
この2つなのでこれをアピールポイントとして使うのがベターではないかと思います。
海外で働きたいことをアピールする
→先述した会社の需要を満たすのが目的です。
これは推測ですが入社していきなり海外で仕事が出来るわけではなく、国内で仕事が一通り出来るようになってから海外に派遣される可能性が高いと思います。
なのでそこは説明会やOB訪問などで現役の人などに直接聞いてみるといいかもしれません。
自動車関連の損害保険を扱う仕事に携わりたいことをアピールする
→海上保険や火災保険などの収益貢献度が低い事業に携わりたいことをアピールすると、会社がその事業に特別テコ入れをしたいと考えていない限りはその事業に携われる可能性は低いですし、会社としても戦力をそこに投下したくないと考えているハズです。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。