ここでは日本の大手時計メーカーの
- ・カシオ計算機(以下:カシオ)
- ・シチズンHD(以下:シチズン)
- ・セイコーHD(以下:セイコー)
- ・リズム時計工業(以下:リズム時計)
の4社を有価証券報告書に記載されている事柄から比較することで、イメージではなくその企業ひいてはその業界の「事実」の確認が出来ればと思っています。
目次
①主要子会社・関連会社の比較
②事業規模の比較(単位:百万円)
売上 順位
- 1位:シチズン
- 2位:カシオ
- 3位:セイコー
- 4位:リズム時計
純利益 順位
- 1位:カシオ
- 2位:シチズン
- 3位:セイコー
- 4位:リズム時計
リズム時計は大手は大手なのですが、他の3社と比較すると大分事業規模の差があります。
なのでこの項目は実質カシオ・シチズン・セイコーの3つ巴の戦いになっています。
中でもカシオとシチズンは売上と純利益どちらでも激しく競り合っていることがわかります。
③安全性の比較
流動比率 順位
- 1位:リズム時計
- 2位:シチズン
- 3位:カシオ
- 4位:セイコー
自己資本比率 順位
- 1位:リズム時計
- 2位:シチズン
- 3位:カシオ
- 4位:セイコー
事業規模では全く歯が立たなかったリズム時計ですが、流動比率と自己資本比率に関しては他の3社より高いレベルにあるようです。
そしてここでもカシオとシチズンは激しく競り合っています。
④利益性の比較
純利益率 順位
- 1位:カシオ
- 2位:シチズン
- 3位:セイコー
- 4位:リズム時計
リズム時計のみ極端に純利益率が低いようです。
ネットFCF 順位
- 1位:カシオ
- 2位:シチズン
- 3位:セイコー
- 4位:リズム時計
事業規模の差が影響し、リズム時計はここでも極端にネットFCFが少ないようです。
ただカシオとシチズンは事業規模の差がほとんどないのにも関わらず、ネットFCFには2倍近くの差があるようです。
実質設備投資/営業CF 順位
- 1位:カシオ
- 2位:リズム時計
- 3位:セイコー
- 4位:シチズン
カシオだけかなり低い設備投資比率を記録しています。
セイコーとシチズンはそこまで変わらずのようです。
在庫回転率 順位
- 1位:カシオ
- 2位:セイコー
- 3位:リズム時計
- 4位:シチズン
ここでもカシオは他の3社よりも高い在庫回転率を記録しています。
他の3社はだいたい横並びですが、中でもセイコーが若干リードしているようです。
⑤コスト&研究開発費の比較
販管費/売上 順位
- 1位:リズム時計
- 2位:シチズン
- 3位:カシオ
- 4位:セイコー
研究開発費/売上 順位
- 1位:リズム時計
- 2位:セイコー
- 3位:カシオ
- 4位:シチズン
販管費も研究開発費もリズム時計が他の3社に一歩リードしています。
リズム時計は全体的に割とコスト効率は良さそうです。
他の3社は横並びといった感じです。
⑥従業員1人あたりの売上&利益の比較
売上/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:カシオ
- 2位:セイコー
- 3位:シチズン
- 4位:リズム時計
カシオだけ一歩リードしており、シチズンとセイコーは横並びで、リズム時計が他の3社に比べて劣っていることがわかります。
営業利益/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:カシオ
- 2位:シチズン
- 3位:セイコー
- 4位:リズム時計
営業利益に関しても売上と同じ感じの順位になっています。
1人あたり営業利益/売上 順位
- 1位:カシオ
- 2位:シチズン
- 3位:セイコー
- 4位:リズム時計
営業利益率に関してもカシオが一歩リードしていますが、シチズンとセイコーを比べてみるとシチズンが幾分かリードしているのがわかります。
⑦事業セグメントの比較
カシオ
※
- 「コンシューマ」
- ウオッチ、クロック、電子辞書、電卓、電子文具、電子楽器、デジタルカメラ等
- 「システム」
- ハンディターミナル、電子レジスター、オフィス・コンピューター、データプロジェクター等
- 「その他」
- 金型等
純粋に時計だけを売っている訳ではないようですが、いずれにせよ「コンシューマ」がこの会社の根幹を成しているようです。
そして「システム」はあまり利益が出ない事業で、それよりも「その他」の方が事業としてはまだマシということがわかります。
シチズン
※
- 「時計」
- ウオッチ、ムーブメントなど
- 「工作機械」
- NC自動旋盤など
- 「デバイス」
- 自動車部品、スイッチ、LED、マイクロディスプレイ、水晶振動子など
- 「電子機器」
- プリンター、健康機器、電卓など
- 「その他」
- 宝飾製品など
「時計」がこの会社のメイン事業のようです。
ただ「工作機械」と「デバイス」もそれなりの貢献度を示しており、中でも「工作機械」は事業の中では最高の営業利益率を誇っており、尚且つ年々上がってきています。
セイコー
※
- 「ウォッチ」
- ウォッチの卸売、時計小売、ウォッチ製造、ウォッチムーブメントの販売など
- 「電子デバイス」
- メカトロニクスデバイス・電子デバイス等の製造・販売
- 「システムソリューション」
- 無線通信機器、情報ネットワークシステム及びデータサービスに係わる製品等の製造・販売
- 「その他」
- クロックの商品開発・製造・販売及び修理・アフターサービス、高級宝飾・服飾・雑貨品等の小売、不動産賃貸、設備時計、スポーツ計時機器の販売
売上と営業利益の貢献度を見ると「ウォッチ」がメイン事業であることがわかりますが、営業利益の経年変化を見ると「ウォッチ」が貢献度を年々落としているのに対して、「電子デバイス」がその貢献度を徐々に上げていっていることがわかります。
ただ営業利益率を見るとどの事業も同じような営業利益率を記録しているので、単純に投下人員数が各種貢献度を左右していそうです。
リズム時計
※
- 「時計」
- 掛時計・置時計・目覚時計・デジタル時計・設備時計・ムーブメント・USBファン・防災行政ラジオなどの製造販売
- 「接続端子」
- タブ端子・テーピング端子・端子台、自動車・太陽光発電・電動アシスト自転車や家電製品に使用される接続端子等の製造販売
- 「プレシジョン」
- 産業機械・光学機器・事務通信機器・自動車・時計等に使用される精密部品、および高難易度精密金型の製造販売
- 「電子」
- 電子機器などのEMS・情報関連機器・車載関連機器・加飾複合品などの製造販売
- 「その他」
- 物流事業等
売上を見ると各事業でバランスが取れているように見えますが、営業利益では「時計」は近年では存在感がほとんど消えており、目下「接続端子」と「プレシジョン」がこの会社の2大メイン事業になっていることがわかります。
そしてこのまま行けば「電子」は近い将来リストラ対象になりそうです。
海外売上比率は以下のようになっています。
カシオとシチズンはもはやグローバル企業で、セイコーは半々くらい、そしてリズム時計はどちらかと言うとドメスティック色が強いようです。
⑧まとめ
これまで見てきた 社の順位を「利益性」「コスト」「安全性」「チーム力」「個人技」の括りで下記します。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※平均以下の項目を赤字で示しています。
利益性 総合順位
- 1位:カシオ(偏差値:64)
- 2位:シチズン(偏差値:52)
- 3位:セイコー(偏差値:47)
- 4位:リズム時計(偏差値:36)
軒並み1位を獲得したカシオが総合1位を獲得しており、2位のシチズンをけっこう大きく引き離しています。
リズム時計は利益性に関しては他の3社に全く歯が立たないようです。
コスト 総合順位
- 1位:リズム時計(偏差値:66)
- 2位:カシオ(偏差値:51)
- 3位:セイコー(偏差値:43)
- 4位:シチズン(偏差値:40)
ただコスト効率という面ではリズム時計がぶっちぎりの1位のようです。
カシオのコスト効率は4社の中では普通のレベルみたいです。
安全性 総合順位
- 1位:リズム時計(偏差値:62)
- 2位:シチズン(偏差値:53)
- 3位:カシオ(偏差値:50)
- 4位:セイコー(偏差値:35)
財務の健全性に関してもリズム時計が1位となっています。
シチズンとカシオが普通レベルで並んでいるのに比べてセイコーは財務の観点ではあまりよろしくないようです。
チーム力 総合順位
- 1位:カシオ(偏差値:60)
- 2位:シチズン(偏差値:57)
- 3位:セイコー(偏差値:49)
- 4位:リズム時計(偏差値:34)
激しい競り合いを制してチーム力はカシオが1位となっています。
上位2社には劣りますがセイコーはなんだかんだで普通くらいで、やはりリズム時計は最下位です。
個人技 総合順位
- 1位:カシオ(偏差値:64)
- 2位:シチズン(偏差値:52)
- 3位:セイコー(偏差値:47)
- 4位:リズム時計(偏差値:36)
チーム力では競っていましたが、個人技ではカシオが頭一つ抜け出ての1位となっています。
そしてシチズンとセイコーはチーム力では割と差がありましたが、個人技ベースではその差は縮まっています。
リズム時計は言わずもがな。
総合順位
- 1位:カシオ(偏差値:66)
- 2位:シチズン(偏差値:50)
- 3位:リズム時計(偏差値:44)
- 4位:セイコー(偏差値:40)
総合順位では順当にカシオが1位となっています。
シチズンは長所と短所が同居した結果、総合的には普通くらいのレベルということになっています。
そしてリズム時計は利益性では全く歯が立たなかったものの、コスト効率の良さや財務の健全性の高さがプラスに働いて3位になっています。
セイコーはこれまであまり目立ってきませんでしたが、どの項目でも割と中途半端な順位を取り続けた結果最下位ということになっています。
各社の特徴をまとめると以下のようになります。
- 強み:チーム力・個人技
- 弱み:財務の健全性
- 強み:チーム力
- 弱み:コスト効率
- 強み:特になし
- 弱み:財務の健全性
- 強み:コスト効率、財務の健全性
- 弱み:利益性
⑨志望動機として使えそうな点
カシオ
業界最大手クラスの事業規模と利益性を誇る点
事業規模もさることながらその内容も4社の中では一番良いのがこの会社も最大の特色です。
なので「業界最大手かつ最優良企業で働きたい」という人にとってはこの上ない会社だと思います。
シチズン
利益性ではカシオには劣るが事業規模は業界最大手クラスである点
数字だけを見ると失礼な言い方をすればこの会社は「良い会社だけどカシオの劣化版」と言えます。
ただカシオブランドの時計とシチズンブランドの時計では色々と差があるので「作っている商品」に対する思い入れの差がある方はシチズンを志望した方がいいと思います。
しかしなんだかんだ言ってもシチズンもカシオと同程度の事業規模を誇る最大手クラスの会社なので、「業界最大手の看板を背負って仕事がしたいと思っており、尚且つシチズンブランドの商品に思い入れがある人」の方がこの会社には向いていると思います。
セイコー
バランスの取れた事業構成をしている点
各数字上では特に目立った強みのないこの会社ですが、セグメントを見てみると他の3社と違って営業利益率的にはかなりバランスの取れた事業構成をしていることを確認してきました。
なので「時計事業以外にも様々な事業に携わる機会が欲しい」という方には向いているかもしれません。
リズム時計
コスト効率と財務の健全性に優れ、会社としての抜群の安定感がある点
事業規模を始めとした利益性では他の3社には全く歯が立たないこの会社ですが、コスト効率と財務の健全性だけは他の3社を圧倒していることを確認してきました。
そういう意味では「事業が安定しているのならば、4社の中で最も堅実な会社」と言えるのではないかと思います。
なので「ガツガツと仕事をするのではなく、堅実な会社で堅実に働いていきたい」と考えている人にとっては最も向いているかもしれません。
これまでまとめてきた事項は数字を元にした会社の実態ではありますが、より正確に実態を掴むためにも説明会で質問してみたり実際に社員の人に会ったりして、調べた情報とズレていないかどうかを確認してみた上で、ESや面接で使用することをおすすめします。