はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、いわゆる就活生に人気の上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、トヨタを取り上げます。
目次
トヨタはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書(2017年3月提出分)から抜粋すると、3つの事業に分けることが出来ます。
- 自動車事業
- トヨタ・日野自動車・ダイハツ工業がメインで自動車の製造・販売を行っている。
- 金融事業
- 国内ではトヨタファイナンス、海外ではトヨタモータークレジットが自動車と他製品の販売を補完するための金融およびリース事業を行っている。
- その他事業
- トヨタホームがメインで住宅の設計・製造・販売を行っている。ほかにも情報通信事業を行っている。
とのことです。
どんな仕事の種類があるのか
有価証券報告書によると、各セグメントの売上割合は以下の通り
3年間平均で売上に占める割合が大きいのは上から順に
- 1位:自動車
- 2位:金融
- 3位:その他
ということになっています。
しかし、一般的には企業が追求するのは売上ではなく利益です。
そこで企業の最終的な利益を示す純利益の項目における各セグメントの割合を見ていきましょう。
ここでの順位付をすると
- 1位:自動車(売上1位)
- 2位:金融(売上2位)
- 3位:その他(売上3位)
となっています。
有名子会社・投資先会社紹介
日本を代表する企業、トヨタは子会社や投資先の会社が多いことで有名です。
そこで有名な子会社や投資先会社をいくつか紹介していこうと思います。
子会社(50%以上の株式を保有)
- ・日野自動車
- ・ダイハツ工業
- ・ミサワホーム
持分法適用会社(20%以上~50%未満の株式を保有)
- ・デンソー
- ・トヨタ自動織機
- ・アイシン精機
- ・アイシンエイダブリュ
- ・ジェイテクト
- ・愛知製鋼
- ・豊田通商
- ・小糸製作所
どこの国で仕事をしているのか
直近3年間の順位付けをすると、
- 1位:北米
- 2位:日本
- 3位:アジア
- 4位:欧州
- 5位:その他(中南米・オセアニア・アフリカ・中近東など)
日本を代表する会社とはいうものの日本での売り上げは全体の30%程度で、海外での売り上げが全体の70%を占めていることがわかります。
つまりは
現在のトヨタの主戦場は日本よりも海外であろう
ということがわかります。
ちなみにこの会社は地域別の営業利益も公表しています。
営業利益とは本業での利益を示す数字で、これが大きければ大きいほどその事業は好調だと言えます。
- 1位:日本(売上2位)
- 2位:北米(売上1位)
- 3位:アジア(売上3位)
- 4位:その他(売上5位)
- 5位:欧州(売上4位)
注目すべきは日本・北米・欧州での営業利益でしょう。
日本での売り上げは全体の30%程度ですが、営業利益は全体の約60%を占めています。
つまりは日本での利益効率はかなり良いということです。
逆に北米と欧州に目を向けてみると、売り上げベースでは2つの地域を合わせて全体の約45%を占めているにも関わらず、営業利益ベースでは全体の約20%しかありません。
これが意味するところは
北米と欧州において売り上げ自体はグループ全体の売り上げの大きな部分を占めていますが利益効率はあまりよろしくない
ということです。
有り体に言えば苦戦しているということかもしれません。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率
- B:自己資本比率
- C:CF計算書
A:流動比率
これは会社の短期の(1年間の)資金繰りを示すものです。
基本的に100%を上回っていれば資金繰りとしては問題ないと言えます。
この会社は一年以内に支払い義務のある借金が約17兆3,000億円あるのに対して、すぐに現金化出来る資産が約17兆8,000億円あるので資金繰りは問題なさそうです。
もはや金額が大き過ぎて現実味がないですが。
B:自己資本比率
これは「純資産(会社が保有している返さなくていいお金)」を「総資産(会社が保有している純資産や借金を含めた全てのお金)」で割ったものです。
これでわかるのは会社が保有している全ての資産(現金、建物、商品在庫など)の内、何割を返さなくてもいいお金でまかなっているのかということです。
具体的な数値で見てみましょう。
グループ全体連結
これはあくまでグループ全体での数字ですが、純資産は約18兆6,000億円で総負債は約30兆円なので借金は割と多めだということがわかります。
しかし就活生のみなさんが就職するのは「トヨタ本体」なので、本体のみの数字を見てみましょう。
単体
単体だと純資産が約11兆3,000億円で総負債が約5兆2,000億円なので、トヨタ本体のみの方が手持ちと借金のバランスが良いことがわかります。
このことから本体はお金を豊富に持っているけれど、子会社や関連会社は借金を大量に抱えていることがわかります。
要は世間のイメージからも実際の数字からもトヨタ本体が倒産するリスクはほとんどないと言うことが出来ると思います。
C:CF計算書
トヨタのCF計算書はどうなっているかというと、
この会社の場合は、毎年3~4兆円を営業活動から稼ぎ出しているのですが、そのほとんどを設備投資などに使っていることがわかります。
金額の規模が大きいのでお金を設備投資などに使っても数千億円が手元に残りますが、パーセンテージで考えるならこの会社は「本業で利益を出す為に毎年設備にかなりのお金が必要」ということが言えるでしょう。
会社の成長性を測る指標
この数字を見る限りではこの会社に成長性はあまりなさそうです。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではトヨタのROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
トヨタと言えども利益効率は「普通」と言えます。
さきの項目で見た自己資本比率が30%台ということを考えると、このROEの数字は割と低い部類に入ります(自己資本比率が低ければ低いほど、ROEは高まる傾向があるため)。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
それでは実際にこの項目(厳密版)を見てみると、
これを見る限りでは純利益や営業CFこそ減っていますが、設備投資の金額を調整することによって他に使えるお金の額を毎年約1兆円程度残していることがわかります。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
帳簿上の純利益こそマイナスに陥っている年がありますが、実際に稼いだ金額である営業CFは毎年大幅なプラスを維持しているので企業としては問題がほとんどないと言えます。
ですが2008年3月から2010年3月にかけて売り上げが約7兆円減少していることを見る限り、トヨタと言えども景気の影響を強く受けざるを得ないということが言えるでしょう。
まとめ
これまでトヨタを数字で見てきたことをまとめると、
- ・売り上げにおいては海外が主戦場
- ・現状の課題はおそらく海外での利益の出し方
- ・トヨタ本体の財務基盤はほぼ盤石
- ・世間一般のイメージは「超優良企業」だが、投資家目線で見ると「特に目立つところがない普通の企業
- ・景気の影響はかなり強く受けるものと思われる
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
海外での仕事に熱意を持っていることをアピールする
トヨタは海外が今の主戦場だということと、海外での業績を今よりも良くしたいと思っているはずなので、ES・面接において就活生は自分は「海外で活躍出来そうな人材」という印象を採用担当者に与えられると他の人との差別化が出来るかもしれません。
「海外での経験がない自分はどうするんだ」という方は、「未知の環境に対応出来る人間」ということを具体的なエピソードと共にアピールするのが良いかもしれません。
ここで言っておきたいのは「新卒採用はおそらく即戦力を求めていない+いきなり海外勤務などという生意気はおそらく通らない」ので、
「実力をつけて、将来的には海外で活躍出来る人材になって御社に貢献していきたいです」
くらいに留めておいた方が良いかもしれないということです。
会社の対処すべき課題からアピールする
有価証券報告書には【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】という項目があります。
トヨタの有価証券報告書のこの項目に書かれていることからアピールポイントを探すのであれば、おそらく以下の様になると思います。
「電動化・情報化・知能化、新価値創造への戦略的シフトで、未来のモビリティ社会の構築を目指す」
意訳すると「ハイブリッド車や電気自動車、自動運転の今までとは違う車を作っていきます」ということになると思うので、
自分がその分野に興味があることや自分が「従来からの革新」ということに対して積極的であることを具体的なエピソードと共にアピールする
ことが有効なのではないかと思います。
「着実に成長するため、仕事の進め方改革を実行していく」/「強い意志を謙虚な学びで従来の延長線上から決別し、もっといいクルマづくりを加速させる」
いわゆる「カイゼン」の文化を言っているのだと思います。
なのでアピールポイントの肝は「自分はトヨタのカイゼンの文化に合っている人材である」ということだと思います。
文章に沿うようにするならば、
「自分は【強い意志】を持ち【謙虚な学び】によって具体的に~なことをしてきました。」
みたいなエピソードがアピール出来ると良いのではないかと思います。
「生き残りをかけて、激変する社会への感度を高め、危機への的確な対応による競争力獲得・維持に取り組んでいく」
まさに上記のようなエピソードを語ることが出来ればアピールポイントになると思います。
少し具体的に言うと
「過去にピンチに陥った時に自分はどう考え、どう動いたか。そして次に備えてどう考え、どう動いたか。」
というエピソードです。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。