はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、帝人を取り上げます。
目次
帝人はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、5つの事業に分けることが出来ます。
- 高機能繊維・複合材料
- アラミド繊維(糸・綿・織編物等)、ポリエステル繊維(産業資材)等、複合成形材料の製造・販売
- 電子材料・化成品
- フィルムの製造・販売、樹脂・樹脂製品等の製造・販売など
- ヘルスケア
- 医薬品・在宅医療機器の製造・販売、新薬の臨床開発
- 製品
- 繊維製品等の企画・加工及び販売
- その他
- 情報システムの運用・開発・メンテナンス、機械の製造・販売・メンテナンスなど
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
売上 順位
- 1位:製品
- 2位:電子材料・化成品
- 3位:ヘルスケア
- 4位:高機能繊維・複合材料
- 5位:その他
売上はけっこうバランスが取れた構成をしています。
利益 順位
- 1位:ヘルスケア
- 2位:高機能繊維・複合材料
- 3位:電子材料・化成品
- 4位:製品
- 5位:その他
利益貢献度はヘルスケアが圧倒的に高いですが、高機能繊維・複合材料と電子材料・化成品の利益貢献度も割と高く、3本柱となっています。
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:その他
- 2位:製品
- 3位:電子材料・化成品
- 4位:高機能繊維・複合材料
- 5位:ヘルスケア
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:製品
- 2位:電子材料・化成品
- 3位:その他
- 4位:ヘルスケア
- 5位:高機能繊維・複合材料
研究開発費と設備投資費は3本柱にけっこうな割合をかけていることがわかります。
順位をまとめると以下のようになります。
セグメント 総合順位
- 1位:製品
- 2位:電子材料・化成品
- 3位:ヘルスケア
- 4位:その他
- 5位:高機能繊維・複合材料
そこそこお金がかからなくてそれなりに利益が出るのは意外にも「製品」のようです。
逆に高機能繊維・複合材料は利益貢献度こそ高いものの、コストも含めるとそこまで効率的な事業ではないようです。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:製品
- 2位:電子材料・化成品
- 3位:ヘルスケア
- 4位:その他
- 5位:高機能繊維・複合材料
電子材料・化成品と製品の異常なまでの個人技の強さが目立ちます。
利益/従業員数 順位
- 1位:電子材料・化成品
- 2位:ヘルスケア
- 3位:高機能繊維・複合材料
- 4位:その他
- 5位:製品
しかし利益になると製品の個人技は大幅にランクダウンします。
電子材料・化成品はここでも強さを発揮しており、売上ではそこまで目立たなかったヘルスケアが肉薄しています。
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:ヘルスケア
- 2位:高機能繊維・複合材料
- 3位:電子材料・化成品
- 4位:その他
- 5位:製品
利益率においては高機能繊維・複合材料が割と順位を上げてきています。
順位をまとめると以下のようになります。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:電子材料・化成品、ヘルスケア
- 2位:高機能繊維・複合材料
- 3位:製品
- 4位:その他
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:製品
- 2位:電子材料・化成品
- 3位:ヘルスケア
- 4位:その他
- 5位:高機能繊維・複合材料
事業としてのクオリティが一番高かった製品ですが、個人技はそこまででもないようです。
逆にヘルスケアは事業としてのクオリティは普通ですが、個人技は強いことがわかります。
電子材料・化成品は事業としてのクオリティと個人技の強さを兼ね備えているので会社にとってはかなり重要な位置づけの事業になっているのではないかと推測します。
どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:中国
- 3位:アジア
- 4位:欧州他
- 5位:米州
売上の半分以上が日本なのでいちおうドメスティックな企業だと言えますが、なんだかんだで全体の売上の40%を海外が占めているので海外展開自体は割と成功しているように見えます。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
自己資本比率は少し心許ないですが、流動比率は常に100%を越えているので資金繰りにはそこまで問題がなさそうです。
B:CF計算書
※単位は百万円
2015年度なんかが顕著なんですが各年純利益を大幅に越える営業CFを稼ぎ出しています。
投資CFは2017年度を除いては営業CFの内々に収めてあり、そういう意味では堅実に投資をしていると言えるでしょう。
しかしそれに付随する財務CFが割とプラス(つまりどこかから資金を調達してきている)のが気になります。
会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
売上はデコボコしているので事業規模はそこまで拡大していないようですが、純利益の数字は上昇しているので事業としてのクオリティに磨きがかかっているのではないかと推測します。
なので成長しているとは言い難く、それよりかは内部での事業のブラッシュアップを優先していると言った方が適当だと思います。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
平均すると特に可もなく不可もなくですが、経年変化を見ると年度を経るに連れてお金の使い方が少しずつ上手くなってきていることが確認出来ます。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
企業買収でお金を使い過ぎた2017年度を例外として、稼ぎ出した営業CFの概ね半分以下しか設備投資に使わずに済んでいるようです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
ここでの数値を見る限りでは景気の影響をモロに受けるようです。
有価証券報告書の「事業等のリスク」の項目でも「外部環境の変化に左右されない企業体への転換を図っていますが、市況製品を展開しているため、景気や市況の変動の影響を受ける可能性があります。」みたいなことが書いてあります。
とはいっても営業CF自体は大幅なプラスを維持しているので「資金繰りに窮して倒産」ということの心配はあまりなさそうです。
まとめ
これまで帝人を数字で見てきたことをまとめると、
- ・一番儲かる事業は「ヘルスケア事業」
- ・あらゆる面から一番効率が良い事業は「電子材料・化成品事業」
- ・海外展開はけっこう進んでいる
- ・お金の使い方は年々上手くなってきている
- ・事業規模の拡大よりも事業のクオリティを上げることを優先している気がする
- ・財務の健全性はビミョウ
- ・景気変動の影響をモロに受けるが、それで一気に窮地に立たされるという訳ではなさそう
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
電子材料・化成品事業もしくはヘルスケア事業に携わりたいことをアピールする
毎度おなじみ「会社側の需要に応える作戦」です。
事業としてのクオリティが一番高いのは「製品事業」ですが、利益貢献度自体は低いので会社にとってそこまでオイシイ事業ではないと思います。
なので「事業としてのクオリティがそれなりに高く、なおかつ利益貢献度も高い事業」を攻めるべきポイントとするのであればまず第一に電子材料・化成品事業、妥協案としてヘルスケア事業に携わりたいことをアピールするのが得策なように思います。
お金の使い方が年々上手くなっている点
これはかなりニッチで、面接やESでの使い方によっては「なんかヘンなやつ」と思われる可能性が割とある作戦です。
どう使うのかと言うと、
「貴社の有価証券報告書とROEの推移を拝見したのですが、事業のクオリティが年度を経るにつれてブラッシュアップされてきているということを感じました。
安易に事業の拡大を狙わず、まずはクオリティを上げてから成長していこうという環境の中でそういったことを肌で感じて学びながら自分もビジネスマンとして成長していきたいと考えています。」
みたいな感じで使うのが良いのではないかと思います。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。