はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、いわゆる就活生に人気の上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、JR東日本を取り上げます。
目次
JR東日本はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書(2017年6月提出分)から抜粋すると、4つの事業に分けることが出来ます。
- 運輸業
- 鉄道事業を中心とした旅客運送事業および鉄道車両製造事業。エリアは関東および東北地方の1都16県。
- 駅スペース活用事業
- 駅の商業スペースでの小売業や飲食業等。
- ショッピング・オフィス事業
- 駅および駅周辺の用地を開発し、ショッピングセンターの運営事業およびオフィスビル等の貸付業。 例)ルミネ、アトレ等
- その他
- ホテル業、広告代理店業、クレジットカード事業等。
とのことです。
ちなみに下記は有名子会社と関連会社です。
どんな仕事の種類があるのか
有価証券報告書によると、各セグメントの売上割合は以下の通り
3年間平均で売上に占める割合が大きいのは上から順に
- 1位:運輸業
- 2位:駅スペース活用
- 3位:ショッピング・オフィス
- 4位:その他
ということになっています。
しかし、一般的には企業が追求するのは売上ではなく利益です。
そこで企業の最終的な利益を示す純利益の項目における各セグメントの割合を見ていきましょう。
ここでの順位付けをすると
- 1位:運輸業(売上1位)
- 2位:ショッピング・オフィス(売上3位)
- 3位:駅スペース活用(売上2位)
- 4位:その他(売上4位)
世間一般のイメージ通りで主に鉄道による運輸業で売上も利益も大半を稼ぎ出しているようです。
そして売上では3位だったショッピング・オフィスが利益貢献度では2位になっていることからこの事業は利益効率がけっこう良い商売だということがわかります。
従業員一人あたりの売上と利益
3年平均での従業員数だと圧倒的に運輸業への配置が多いことがわかります。
そして売上や利益の貢献度が低いその他のホテルや広告代理店への配置も意外と多いですね。
これは従業員1人あたりの売上額です。
順位付けをしてみましょう。
売上/従業員数 順位(3年平均)
- 1位:ショッピング・オフィス(1人あたり年間1億3,200万円)
- 2位:駅スペース活用(1人あたり年間8,700万円)
- 3位:運輸業(1人あたり年間3,800万円)
- 4位:その他(1人あたり年間1,600万円)
一目瞭然でショッピング・オフィスの1人あたり売上が高く、運輸業のそれはそこまで大きくないことがわかります。
そして意外にも駅スペース活用が運輸業の数値の2倍以上を叩き出しています。
次に従業員1人あたりの利益額を見てみましょう。
利益/従業員数 順位(3年平均)
- 1位:ショッピング・オフィス(1人あたり年間3,700万円)
- 2位:駅スペース活用(1人あたり年間700万円)
- 3位:運輸業(1人あたり年間600万円)
- 4位:その他(1人あたり年間200万円)
この順位もさきの売上/従業員数の順位と変わらずですが、駅スペース活用と運輸業の数値を比較すると差がそれほど大きくないことから、とりあえず従業員1人あたりの利益効率としては運輸業の方が駅スペース活用よりも良いと言うことが出来ます。
確認として各セグメント毎の従業員1人あたりの利益効率として「従業員1人あたりの利益÷従業員1人あたりの売上」を見てみましょう。
確かに運輸業の方が駅スペース活用よりも利益効率が良いようです。
そしてショッピング・オフィスは圧倒的な利益効率で、その他もけっこう利益効率が良いようです。
上記のことをまとめると、売上や利益の総額で言うと運輸業が事業の柱であることは間違いないのですが、効率という観点で言うとショッピング・オフィスが最も優れている事業と言えるでしょう。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率
- B:自己資本比率
- C:CF計算書
A:流動比率
不安になる数値です。
おそらく支払いよりも受け取りの期日の方が早く到来するために資金繰りが出来ているものと推測します。
B:自己資本比率
グループ全体連結
あまり良くないようです。
C:CF計算書
営業CFが純利益の2倍以上あり(つまり実際は帳簿上の2倍以上稼ぎ出している)、かつ投資CFは営業CFの数値の範囲内で収めていて、財務CFの数値を見る限りでは借金の返済や配当の支払いを毎年しっかりと行えているようなので、非常にキレイで健全なCFの状態と言えます。
会社の成長性を測る指標
この会社の一般的なイメージは「成熟した大企業」だと思うのですが、実際は毎年少しずつですが業績を伸ばし成長していっているようです。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
普通です。
それ以上の何ものでもないです。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
これもまた非常にキレイな形になっています。
だいたい毎年1,000億円以上の自由に使えるお金を確保出来ているので健全経営だと言えます。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
リーマンショック時は売上・純利益こそ減少傾向にありますが、実際に稼いだ金額である営業CFはそこまで影響を受けていません。
もしこの3年間の推移が新聞や雑誌に書かれるのだとしたら
「JR東日本、売上約1,000億円・純利益約700億円減少。リーマンショックの影響は免れず。」
という感じになりそうですが、営業CFは傷ついていないので実際にはあまり問題ないと思います。
まとめ
これまでJR東日本を数字で見てきたことをまとめると、
- ・運輸業が事業の柱
- ・ただし商売の効率としては総合的に見てショッピング・オフィス事業が最も良い
- ・財務基盤は良いとは言えない
- ・ちゃんと稼いで、投資もして、払うものも払っている健全な経営をしている
- ・不況の影響はあまり受けそうにない
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
不況耐性がありそうな点
鉄道という社会的なインフラを担っている企業の性質もあると思いますが、数字でも確認したとおり、不況にはけっこう強そうです。
なのでこの「事業の安定感」を面接やESの訴求ポイントとして使います。
具体的には「高収入はいらないからインフラ企業で安定した仕事がしたいと考えている人」には向いていると思います。
ショッピング・オフィス事業に関わりたいことをアピールする
これは競合就活生との差別化を図るためです。
理由は大半の競合は運輸業を志望動機としてアピールしてくる可能性が高く、それはそれで会社の需要には合ってはいるのですが、収益性が高いのは実はショッピング・オフィス事業です。
なのでこの事業を志望動機としてアピールすることでまず競合とバッティングしない可能性が高まり、それに伴って採用担当者の記憶に残りやすくなるのではないかと考えるからです。
そして「不動産業に携わりたいが、大手デベロッパーでは内定がもらえなかった」という人にとっては穴場になりうるかもしれません。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。