はじめに
ここでは日本の私鉄大手の
- ・東武鉄道(以下:東武)
- ・東京急行電鉄(以下:東急)
- ・小田急電鉄(以下:小田急)
- ・京王電鉄(以下:京王)
- ・京成電鉄(以下:京成)
の5社を有価証券報告書に記載されている事柄から比較することで、イメージではなくその企業ひいてはその業界の「事実」の確認が出来ればと思っています。
目次
- 主要子会社・関連会社の比較
- 事業規模の比較
- 事業規模の比較
- 安全性の比較
- 利益性の比較
- コスト&研究開発費の比較
- 従業員1人あたりの売上&利益の比較
- 事業セグメントの比較
- まとめ
- 志望動機として使えそうな点
主要子会社・関連会社の比較
事業規模の比較(単位:百万円)
売上 順位
- 1位:東急
- 2位:東武
- 3位:小田急
- 4位:京王
- 5位:京成
純利益 順位
- 1位:東急
- 2位:東武
- 3位:京成
- 4位:小田急
- 5位:京王
事業規模においては東急が頭一つ抜けており、逆に京成は頭一つ低いことが確認出来ます。
他の3社はだいたい同じくらいでそこまで極端に差はありません。
安全性の比較
流動比率 順位
- 1位:京王
- 2位:東急
- 3位:京成
- 4位:東武
- 5位:小田急
自己資本比率 順位
- 1位:京王
- 2位:京成
- 3位:東急
- 4位:東武
- 5位:小田急
流動比率は各社ともけっこう心配になる水準で1位の京王でも全然安心できない水準です。
とは言うものの鉄道会社は流動資産に対して流動負債が多い傾向があります。
なぜかというと「前受金」という流動負債項目が結構なウェイトを占めるからです。
前受金は「顧客の要請によってはその顧客に返さなければならないお金だが、期日を過ぎれば売上として計上されるもの」です。
つまりは商品やサービスの対価としてお客さんから受け取ったお金ではあるけれども、もしかしたら返さなければならないかもなお金だから一応負債として計上してあるということです。
自己資本比率は5社ともそこまで変わりません。
利益性の比較
純利益率 順位
- 1位:京成
- 2位:東武
- 3位:小田急
- 4位:東急
- 5位:京王
飛びぬけて高い京成の純利益率が目立ちます。
他は横並び。
ネットFCF 順位
- 1位:京成
- 2位:東急
- 3位:小田急
- 4位:京王
- 5位:東武
東武と京王以外はだいたい同じくらいですが、事業規模が小さい京成がここでも奮戦しています。
実質設備投資/営業CF 順位
- 1位:京成
- 2位:小田急
- 3位:東急
- 4位:京王
- 5位:東武
そして5社の中では異常なまでのコストの低さの京成。
だいたいどこも稼いだお金の90%~100%を設備投資で吐き出しているのですが、京成は60%くらいしか使わずに済んでいます。
在庫回転率 順位
- 1位:東武
- 2位:京成
- 3位:東急
- 4位:京王
- 5位:小田急
在庫回転率とは「商品の仕入れから販売に至るまでの速さを示す指標」で、1年間に商品が何回転したかを表しています。
計算式は「売上高÷たな卸資産」です。
この数字は高ければ高いほど商品がよく売れるということ、逆に低ければ低いほど商品があまり売れていないということになります。
東武と京成が5社の中では抜けているようです。
ちなみに各社とも不動産事業を営んでいるので、販売用不動産が在庫の中に含まれています。
コスト&研究開発費の比較
販管費/売上 順位
- 1位:京王
- 2位:京成
- 3位:小田急
- 4位:東急
- 5位:東武
販管費とは正式には「販売費及び一般管理費」と言い、ざっくり言うと人件費・広告宣伝費・運送費などの商品を販売するのにかかった費用のことです。
極端な差があるとすれば1位の京王と5位の東武に約2倍の開きがあるくらいです。
研究開発費/売上 順位
- 1位:東武・小田急・京王・京成
- 2位:東急
東急のみ研究開発費を計上しているが故のこの順位です。
従業員1人あたりの売上&利益の比較
売上/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:東急
- 2位:小田急
- 3位:京王
- 4位:東武
- 5位:京成
東急・小田急の個人技の強さが目立ちます。
営業利益/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:小田急
- 2位:東急
- 3位:東武
- 4位:京成
- 5位:京王
5社の間にそこまでの差はないようです。
1人あたり営業利益/売上 順位
- 1位:京成
- 2位:東武
- 3位:小田急
- 4位:京王
- 5位:東急
東急のみ利益率が低く、他の4社はどこも同じくらいのようです。
事業セグメントの比較
東武
※流通・・・百貨店など
売上こそ運輸と流通で過半を占めていますが、利益では運輸が圧倒的に貢献度が高く、逆に流通は利益貢献度はかなり低いです。
流通の代わりに不動産が利益貢献度が高いことがわかります。
東急
※生活サービス・・・百貨店など
売上貢献度は生活サービスが一番高いですが、利益貢献度はそうでもありません。
不動産と交通の2事業が利益貢献度が圧倒的に高く、この2事業がこの会社の屋台骨となっているようです。
小田急
※流通・・・百貨店など
この会社も売上貢献度は流通が一番高いですが利益貢献度は低く、運輸が利益の過半を占めています。
ここまで3社を見てきた感じだと百貨店は売上を挙げるけれどもそんなに儲からないようです。
京王
※流通・・・百貨店など
この会社の流通もまた然りのようです。
そして不動産事業の利益効率はやはりこの会社も良いようです。
京成
この会社も他と似たような感じです。
ざっくりまとめるとここで見てきた私鉄各社は売上は運輸と流通で大半を稼ぐけれど、利益は運輸と不動産で大半を稼いでいるようです。
ちなみにこの会社の不動産の利益効率は5社の中で一番良いようです。
ここで、各社共通して営んでいる事業の「運輸・流通・不動産」の3事業の利益貢献度と利益効率の比較表を記載しておきますので、よろしければご参照下さい。
まとめ
これまで見てきた 社の順位を「利益性」「コスト」「安全性」「チーム力」「個人技」の括りで下記します。
(総合点と平均が低ければ低いほどこの項目について「優れている」ということになります。)
利益性 総合順位
- 1位:東急
- 2位:東武
- 3位:京成
- 4位:小田急
- 5位:京王
コスト 総合順位
- 1位:京成
- 2位:小田急・京王
- 3位:東急
- 4位:東武
安全性 総合順位
- 1位:京王
- 2位:東急・京成
- 3位:東武
- 4位:小田急
チーム力 総合順位
- 1位:東武・東急
- 2位:京成
- 3位:小田急
- 4位:京王
個人技 総合順位
- 1位:小田急
- 2位:東急
- 3位:東武
- 4位:京成
- 5位:京王
総合順位
- 1位:京成
- 2位:東急
- 3位:東武・小田急
- 4位:京王
各社の特徴をまとめると以下のようになります。
東武
- 利益性:2位
- コスト:2位
- 安全性:3位
- チーム力:1位
- 個人技:3位
- 総合:3位
- ・チーム力は一番高いけれども他の項目はフツウ
東急
- 利益性:1位
- コスト:2位
- 安全性:2位
- チーム力:1位
- 個人技:2位
- 総合:2位
- ・事業規模は圧倒的に大きい
- ・他の項目も概ね上位にランクインしているバランスが取れた会社
小田急
- 利益性:4位
- コスト:2位
- 安全性:4位
- チーム力:3位
- 個人技:1位
- 総合:3位
- ・個人技の圧倒的な強さを誇る
京王
- 利益性:5位
- コスト:2位
- 安全性:1位
- チーム力:4位
- 個人技:5位
- 総合:4位
- ・コスト効率が良く、財務も5社の中では一番マシなので割と堅実な印象
- ・ただ「利益を稼ぐ」という点において5社の中では一番劣っている
京成
- 利益性:3位
- コスト:1位
- 安全性:2位
- チーム力:2位
- 個人技:4位
- 総合:1位
- ・事業規模は大きくないが圧倒的な利益効率とコスト効率を誇るため、手元に残る自由資金は一番多い
- ・個人技以外には他の4社と比べて劣ったところがほとんどなく、会社としての総合力は高い
志望動機として使えそうな点
東武
チーム力が一番優れている点
個人の力量は普通だけれども、会社として売上や利益を挙げるシステムが一番優れているので、スタンドプレーではなくチームプレーの中で力を発揮するのが得意だと思う人にとっては最も向いているかもしれません。
東急
5社の中で最大の事業規模を誇る点
大手で働きたいという人には向いているかもしれません。
不動産事業の利益貢献度が高い点
会社側の需要に応えるのならばこの分野に携わりたいことをアピールするのが最も効率が良いと思います。
小田急
個人技が一番優れている点
優秀な人たちの高いレベルの競争の中で揉まれて成長したいという人には最も向いているかもしれません。
京王
割と堅実な経営をしていそうな点
「多くの利益を稼ぎたい」という志向ではなく「堅実な会社で働きたい」という志向の人にとっては一番向いているかもしれません。
京成
鉄道会社としては会社のクオリティが総合的に優れている点
純粋に「最も優れた私鉄会社で働きたい」と考えている人には向いているかもしれません。
これまでまとめてきた事項は数字を元にした会社の実態ではありますが、より正確に実態を掴むためにも説明会で質問してみたり実際に社員の人に会ったりして、調べた情報とズレていないかどうかを確認してみた上で、ESや面接で使用することをおすすめします。