はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、東京急行電鉄(以下:東急)を取り上げます。
目次
東急はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、4つの事業に分けることが出来ます。
- 交通
- 鉄軌道業、バス業、空港運営事業、鉄道車両関連事業
- 不動産
- 不動産販売業、不動産賃貸業、不動産管理業、不動産仲介業
- 生活サービス
- 百貨店業(東急百貨店)、チェーンストア業(SHIBUYA109など)、クレジットカード業、ケーブルテレビ事業、広告業(東急エージェンシー)、映像事業
- ホテル・リゾート
- ホテル業(東急ホテル、エクセルホテル東急、東急REIホテル)、ゴルフ業(スリーハンドレッドクラブ、セブンハンドレッドクラブなど)
①どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
売上 順位
- 1位:生活サービス
- 2位:交通
- 3位:不動産
- 4位:ホテル・リゾート
売上は「生活サービス」がかなり大きな割合を占めており、残りはその他の3事業で分け合っていることがわかります。
利益 順位
- 1位:不動産
- 2位:交通
- 3位:生活サービス
- 4位:ホテル・リゾート
ただ営業利益となると「生活サービス」は鳴りをひそめ、「交通」「不動産」の存在感が大きくなっています。
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:不動産、ホテル・リゾート
- 2位:生活サービス
- 3位:交通
研究開発費に関しては「交通」にほぼ全てをかけており、その他の3項目にはほとんどかけていないことがわかります。
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:ホテル・リゾート
- 2位:生活サービス
- 3位:交通
- 4位:不動産
設備投資費がけっこうかかりそうなイメージがある「ホテル・リゾート」は設備投資費が一番軽めで、「交通」「不動産」の2事業にかなりの額の設備投資費をかけていることがわかります。
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
セグメント 総合順位
- 1位:生活サービス(偏差値:65)
- 2位:不動産(偏差値:50)
- 3位:ホテル・リゾート(偏差値:48)
- 4位:交通(偏差値:37)
総合的に見ると「生活サービス」が一番クオリティの高い事業のようです。
「不動産」と「ホテル・リゾート」の事業クオリティは同じくらいで、売上貢献度・利益貢献度が共に上位だった「交通」はその研究開発費と設備投資費の多さが影響して事業クオリティは最下位ということになっています。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:生活サービス
- 2位:不動産
- 3位:ホテル・リゾート
- 4位:交通
個人技ベースでも「生活サービス」はかなりの強さを見せており、「不動産」がそれに続きます。
なお売上貢献度では約2倍の差があった「交通」と「ホテル・リゾート」ですが、個人技では同じくらいのようです。
利益/従業員数 順位
- 1位:不動産
- 2位:交通
- 3位:生活サービス
- 4位:ホテル・リゾート
この項目では「不動産」が圧倒的な強さを見せつけて1位となっています。
なお、2位の「交通」と3位の「生活サービス」の間にもダブルスコア以上の差があります。
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:不動産
- 2位:交通
- 3位:ホテル・リゾート
- 4位:生活サービス
営業利益率では「不動産」が1位となっていますが、個人技での営業利益の時と比べると2位の「交通」との差はかなり縮まった印象です。
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:不動産(偏差値:66)
- 2位:生活サービス(偏差値:48)
- 3位:交通(偏差値:47)
- 4位:ホテル・リゾート(偏差値:39)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:生活サービス(偏差値:65)
- 2位:不動産(偏差値:50)
- 3位:ホテル・リゾート(偏差値:48)
- 4位:交通(偏差値:37)
「不動産」が軒並み高順位を連発して1位となっており、個人技では会社内で圧倒的な最強の地位を築いていることがわかります。
そして「生活サービス」は事業クオリティでは高得点を獲得してのトップでしたが個人技ではだいたい平均的な存在になっており、「交通」は逆に事業クオリティは微妙でしたが個人技では平均的な存在のようです。
②どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:海外
言わずもがなで思いっきりドメスティックな会社のようです。
③会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
流動比率は50%と手元資金が全然ない状態のようです。
おそらく借り入れか支払い時期の差異によって資金繰りを上手いことやっているものと思われます。
そして自己資本比率は割と低めなので、この会社の財務はあまり健全ではないと思います。
B:CF計算書
※単位は百万円
各年営業CFが純利益の約2倍あるので見た目よりもキャッシュフローは多いようですが、投資CFでほとんどを吐き出していることがわかります。
そして財務CFに関してはトータルではほぼほぼ動きがないようです。
総じてけっこうアグレッシブな経営をしているようです。
④会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
売上高・純利益・営業CFの3項目とも少しずつではありますが順調に伸びてきています。
そして純利益率もここ3年間で上がってきており、質・量共に成長軌道に乗っているようです。
⑤投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
上記の基準に照らし合わせてみるならば「普通」ということになるのでしょうが、自己資本比率が30%台ということを鑑みると、あまりお金の使い方は上手くなさそうです。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
かろうじて自由資金を残せていますが、営業CFのうち平均97%を設備投資に使ってしまっています。
事業維持にはかなりのお金がかかっているので、事業の効率は良くないようです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
売上高は減ってはいますがそこまで大きな変動ではないのに対し、純利益及び純利益率はリーマンショックをまたいで大幅に減っています。
ただ営業CFはむしろ増えていることから、景気の影響は受けるには受けるけれども、それによって会社が傾く可能性はかなり低いのではないかと思います。
⑥まとめ
これまで東急を数字で見てきたことをまとめると、
- ・稼ぎ頭は「交通」と「不動産」だが、事業としてのクオリティは高くない
- ・事業として最も効率が良いのは「生活サービス」
- ・個人技では「不動産」が最強
- ・海外展開はほぼしていないに等しい
- ・財務基盤は弱い
- ・けっこうアグレッシブに攻めた経営をしているように見える
- ・質と量ともに成長軌道に乗っている
- ・お金の使い方は上手くない
- ・全体の事業の効率は良くない
- ・景気の影響は受けるが、深刻なダメージを受ける可能性は低いと思われる
ということになるでしょう。
⑦ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「生活サービス」及び「不動産」を攻める
利益貢献度の面から見ると「交通」と「不動産」が会社の中では大きな顔が出来るのではないかと推測します。
ですが事業の効率から見ると「不動産」はまだしも「交通」はかなりコストがかかるので効率は悪いということを確認してきました。
そういう意味ではこの会社は最も効率が良い事業である「生活サービス」を伸ばすことが出来れば会社の成長を促せるのではないかと思います。
なので会社側にニーズが「生活サービス」にあると仮説を立てた上で、その需要を満たすために敢えて「『生活サービス』の業務に携わりたいことをアピールする」のが良いのではないかと思います。
そして何だかんだ言って「不動産」は個人技が圧倒的に強いのでこの事業を伸ばすことも会社側のニーズとしてあるのではないかと思うので、「生活サービス」にどうしても興味が持てない人は「『不動産』に携わりたいことをアピールする」のが良いのではないかと思います。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。