はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、いわゆる就活生に人気の上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、資生堂を取り上げます。
目次
資生堂はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書(2017年3月提出分)から抜粋すると、主に6つの事業
- ・化粧品
- ・化粧用具
- ・トイレタリー製品
- ・理・美容製品
- ・美容食品
- ・医薬品の製造・販売
から収益を得ているようです。
どんな仕事の種類があるのか
有価証券報告書によると、各セグメントの売上割合は以下の通り(2015年度はセグメントの表記が異なるのでここでは載せていません)
2年間平均で売上に占める割合が大きいのは上から順に
- 1位:日本事業
- 2位:米州事業
- 3位:中国事業
- 4位:欧州・中東・アフリカ事業
- 5位:アジアパシフィック事業
- 6位:トラベルリテール事業(空港免税店等での化粧品の販売)
ということになっています。
これを見る限りでは
売り上げの半分は日本で稼いでいますが、もう半分は海外で稼いでいるので、アジア圏を中心にグローバルに事業展開をしている
ということがわかります。
しかし、一般的には企業が追求するのは売上ではなく利益です。
そこで企業の最終的な利益を示す純利益の項目における各セグメントの割合を見ていきましょう。
ここでの順位付をすると
- 1位:日本事業(売上1位)
- 2位:トラベルリテール事業(売上6位)
- 3位:中国事業(売上3位)
- 4位:アジアパシフィック事業(売上5位)
- 5位:欧州・中東・アフリカ事業(売上4位)
- 6位:米州事業(売上2位)
海外売上比率が50%にも関わらず、利益は日本でしか稼げていないことがわかります。
特に悲惨なのは米州事業(アメリカ+カナダ)で、全体における売上の20%を稼ぎ出しているにも関わらず、最終的な全体における利益を18%押し下げています。
ただ悲惨な事業を抱えているだけではなく、規模は小さいながらもトラベルリテール事業が会社にとっての金の卵になっていることがわかります。
有価証券報告書においても「成長余地が大きく、収益性が高いこの事業に対し、当社は日本初ブランドの中では強みがある一方で、グローバル競合他社に比べ売上構成比が低いため、最重点事業の一つとして積極的に強化しています。」と書いてあります。
全体を俯瞰した勝手なイメージとしては、
モンゴロイド系が大半のアジアではそれなりに稼げているが、アングロサクソン系が大半の北米やヨーロッパでは苦戦している、
という感じでしょうか。
どこの国で仕事をしているのか
直近3年間の順位付けをすると、
- 1位:日本
- 2位:アジア・オセアニア
- 3位:米州
- 4位:欧州
さきほどの「セグメント別」がほぼ地域別の構成だったので確認出来ることはだいたい同じです。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率
- B:自己資本比率
- C:CF計算書
A:流動比率
今後1年以内に払う借金の額と手持ち資金とのバランスを表す流動比率を見ると、資金繰りはほとんど問題なさそうです。
B:自己資本比率
これは「純資産(会社が保有している返さなくていいお金)」を「総資産(会社が保有している純資産や借金を含めた全てのお金)」で割ったものです。
これでわかるのは会社が保有している全ての資産(現金、建物、商品在庫など)の内、何割を返さなくてもいいお金でまかなっているのかということです。
具体的な数値で見てみましょう。
グループ全体連結
しかし就活生のみなさんが就職するのは「資生堂本体」なので、本体のみの数字を見てみましょう。
単体
子会社含めた連結での自己資本比率より資生堂本体の自己資本比率の方が少し高く、おまけに50%を超えているので財務状態は良好な方だと言えます。
C:CF計算書
CF計算書はどうなっているかというと、
項目ごとに見ていきます。
営業CFは純利益よりも大幅に大きいので非常に良いと言えます。
投資CFは直近ではかなりの額を投資しているようですが、内訳をみたところその大半が「有形固定資産(建物や工場の類)の取得」と「子会社の取得(企業買収)」なので毎年投資にお金を注ぎ込んでいる、という訳ではなさそうです。
財務CFは2017年度だけプラス(つまりお金を調達している)なのはおそらく買収関係の資金でしょう。
例年はちゃんと借金などを返済しているみたいです。
会社の成長性を測る指標
2017年度に入って売上高が前年度より900億円増えています。
これはさきに述べた子会社の取得に伴うものかと思われます。
ただ帳簿上とはいえ純利益は2年前と同水準なので、「成長している」という印象はあまり受けないです。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
結論から言うと、投資家から見るとあまりこの会社は魅力的に見えないと思います。
なぜなら利益効率があまり良くないからです。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
それでは実際にこの項目(厳密版)を見てみると、
2017年度にはネットFCFがマイナスになっていますが、例年だと色々やったのちに好きに出来るお金が300~400億円ほど残っていたようです。
今後資生堂が「企業買収による成長」を経営の中心に置かなければ、ネットFCFは安定する可能性が高いのではないでしょうか。
そういう意味では割と堅実な経営をしている会社であると言えます。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
大半の企業が大やけどをしたリーマンショック時の経営成績ですが、売上高こそ徐々に減らしているものの、純利益と営業CFは結果的に微減で済んでいます。
もっと言うと2017年現在よりもこの時期の方が純利益と営業CFが大きいです。
これが意味するところは、
不況だろうが何だろうが化粧やシャンプーなどのほぼ日常的な行動にかけるお金は減らされない可能性が高い
ということです。
ネット系企業みたく爆発的な売上の増加などは見込めませんが、資生堂が売っているのは需要がそこまで変わらない「日用品」なので地味ながらも安定感はかなりあるのではないでしょうか。
まとめ
これまで資生堂を数字で見てきたことをまとめると、
- ・売上は日本と海外で半々
- ・ただ利益はアジア、ひいては日本でしか稼げていない
- ・北米とヨーロッパで苦戦している
- ・事業の安定感は抜群
- ・成長はあまり見込めない
- ・空港免税店での事業が意外と稼げる
- ・利益効率はあまり良くない
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
会社側の「需要」にアプローチする
この会社を受験する就活生の大半はおそらく「TSUBAKIがどうのこうの」とか「マキアージュがどうのこうの」とかをESや面接で述べてくる可能性が高いと推測します。
ダメです。
なぜならそれでは競合(=他の就活生)との差別化にならないからです。
ここで、就活生のみなさんの夢やニーズは無視して単純に「資生堂に入社する」という目的の達成のみを考えた場合、私の考える差別化案は
「空港免税店で働くことに対する高いモチベーションと熱意をアピールすること」
です。
これは会社説明会などで「空港免税店での事業に注力します!」と会社側から言っていない、つまりは就活生の大半が「空港免税店事業が資生堂の金の卵である」ことを知らないという前提があってのみ成立する作戦ですが、もしそうだった場合のメリットは主に3つあります。
1つ目
採用担当者は就活生が有報を読んでいることなど想定していないので、もしそのニュアンスが伝わったら「ウチの会社をよく調べている」と感心してもらえる可能性が高くなることです。
2つ目
「免税店に並々ならぬ熱意を持ってる変わったコがいた」といったように採用担当者の印象に残る可能性が高まることです。
3つ目
何よりもこの事業は今後「最重点事業の一つとして積極的に強化したい」と会社側が言っているので、会社の方向性にマッチしている人材と受け取られる可能性が高いことです。
会社の「対処すべき課題」からアプローチする
有報の項目の中に「対処すべき課題」というものがあります。
2017年度のこの項目の中に「ダイバーシティのさらなる推進と女性活躍支援」を課題として挙げているので、その点からのアプローチを考えます。
ここで言っていることをざっくりとまとめると、
- 「多様な考え方や価値観を認めます」
- 「女性の活躍支援が重要な使命と考えている。2017年現在では当社は女性管理職比率30%を達成したが、2020年までに40%に高める。」
- 「子育て支援で自社内保育所を運営してきたが、もっとそれを拡げていく。」
ということになります。
詳しいことは自分で有報を確認することをおすすめしますが、上記のことがESや面接で話すネタの一つにはなるのではないかと思います。
事業の安定性からアプローチする
この会社の会社としての特性は事業の抜群の安定感です。
いくら良い製品を出していても会社が不安定でなくなってしまったら元も子もありません。
なのでESや面接でアピールするのは
「継続して化粧品などの日用品を売るために、安定している会社に入りたい」
という点です。
これは競合他社(花王・コーセー)にも言えることですが、重要なのはこの業界が
「景気の恩恵はそんなに受けないが、逆に景気に左右されにくい業界」
であることです。
なぜそういったことが自分にとって重要なのかを具体的なエピソードで説明出来ると志望動機に説得力が増すかもしれません。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。