はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、東京電力ホールディングス(以下:東京電力)を取り上げます。
目次
- どんな仕事の種類があるのか
- どこの国で仕事をしているのか
- 会社の安定性を測る指標
- 会社の安定性を測る指標
- 会社の成長性を測る指標
- 投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- まとめ
- ES・面接での想定訴求ポイント
東京電力はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、4つの事業に分けることが出来ます。
- ホールディングス
- 経営サポート、各幹事会社(フュエル&パートナー、パワーグリッド、エナジーパートナー)への共通サービスの効率的な提供、水力発電による電力の販売、原子力発電等
- フュエル&パワー
- 火力発電による電力の販売など
- パワーグリッド
- 送電・変電・配電による電力の供給、送配電・通信設備の建設・保守、設備土地・建物等の調査・取得・保全
- エナジーパートナー
- お客様のご要望に沿った最適なトータルソリューションの提案、充実したお客様サービスの提供、安価な電源調達
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
売上 順位
- 1位:エナジーパートナー
- 2位:パワーグリッド
- 3位:フュエル&パワー
- 4位:ホールディングス
利益 順位
- 1位:フュエル&パワー
- 2位:エナジーパートナー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:エナジーパートナー
- 2位:フュエル&パワー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:エナジーパートナー
- 2位:フュエル&パワー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
順位をまとめると以下のようになります。
セグメント 総合順位
- 1位:エナジーパートナー
- 2位:フュエル&パワー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
売上は「エナジーパートナー」が圧倒的で他に並び立つ項目がありません。
そして利益貢献度においても「エナジーパートナー」が大きな割合を占めていますが、1位は「フュエル&パワー」です。
コストも含めた全体で行けば「エナジーパートナー」が1位なのですが、「フュエル&パワー」も売上貢献度を除けば同じくらいの事業としてのクオリティを有していることがわかります。
「ホールディングス」は原子力発電が事業内容として組み込まれているのと、会社全体のサポート部署のため「各種貢献度が低い&コストが高い」ということになってしまうのはある程度仕方がないのかな、といった感じです。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:エナジーパートナー
- 2位:フュエル&パワー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
利益/従業員数 順位
- 1位:フュエル&パワー
- 2位:エナジーパートナー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:フュエル&パワー
- 2位:パワーグリッド
- 3位:エナジーパートナー
- 4位:ホールディングス
順位をまとめると以下のようになります。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:フュエル&パワー
- 2位:エナジーパートナー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:エナジーパートナー
- 2位:フュエル&パワー
- 3位:パワーグリッド
- 4位:ホールディングス
個人技においても「エナジーパートナー」の売上は圧倒的に強いのですが、恐るべきは「フュエル&パワー」の異常な利益効率の高さです。
利益率が100%を超えているのは母数となる売上高に企業内部間取引での売上高が入っていないからなのですが、それにしたって異常です。
まとめるとチーム力は「エナジーパートナー」が強いけれども個人技では圧倒的に「フュエル&パワー」の方が強い、ということになります。
「パワーグリッド」と「ホールディングス」はチーム力でも個人技でも順位の変動はないことから、基本的に主力事業は「エナジーパートナー」と「フュエル&パワー」ということで良さそうです。
ただ「パワーグリッド」は売上貢献度・利益貢献度は共に低いものの、利益効率は「エナジーパートナー」をはるかに凌ぐ数値を叩き出しているので、今後の経営のキモになってきそうです。
どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:海外
決算書には「本邦の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記載を省略している。」と書いてあるため、完全にドメスティックな企業と言えるでしょう。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
基本的にお金がないことがわかります。
なので財務の健全性としてはかなり不健全だということになります。
B:CF計算書
※単位は百万円
原発問題があって更に財務も不健全で印象がよろしくないこの会社ですが、利益はしっかりと出ているようです。
そして驚くべきは純利益よりもはるかに多くの営業CFがあることです。
この原因は毎年多額の減価償却費と原子力損害賠償費を計上していることにあります。
原子力損害賠償費はいずれにせよ費用として出ていくものの、支払い時期が比較的遅いということがこの会社の経営にとってはかなりプラスに働いているように思えます。
会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
やはりと言うべきかわかりませんが、売上高・純利益ともに減少傾向にあるようです。
営業CFはデコボコしていますが、基本的には成長軌道には乗っていないとみてよいと思います。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
「自己資本比率が低いから」という理由もありますが、ROEの水準はそこまでヒドい訳ではなく、「普通」です。
何なら2015年度に至っては「素晴らしい」水準の効率性を見せています。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
そしてネットFCFの項目を見てみると、かなり堅実な会社の経営がされていることがわかります。
なんだかんだ言っても稼ぎ出した営業CFの40%近くのキャッシュを自由資金として手元に残せています。
この会社は配当は行っていないので、やりくりして生み出した自由資金で借金の返済や諸々の支払いを行っているようです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
数字を見る限り不況にはかなり弱いようです。
しかし営業CFは大幅なプラスを維持しているため、不況にぶち当たったからと言って「会社的にピンチになる」という訳ではなさそうです。
そして情報を補足しておくと、例の原発事件があった2011年度と2012年度でも売上高はほとんど変わっていません。
さすがに2012年度には営業CFはマイナスに転じていますが、それでも「-2,891百万円」程度で済んでいます。更に言うと2011年度の営業CFは2010年度の営業CFと同程度です。
かんたんに言えば、原発事件で会社の経営が苦しくなったのは事実ではあるものの、当時から今まで騒がれているほどのショックは数字上はあまり見受けられない、ということになります。
まとめ
これまで東京電力を数字で見てきたことをまとめると、
- ・「エナジーパートナー」と「フュエル&パワー」がメイン事業
- ・かなりドメスティックな企業
- ・財務は不健全
- ・しかし経営は堅実そのもの
- ・成長軌道にはなく、むしろ事業規模は縮小してきている
- ・お金の使い方は悪くなく、普通くらい
- ・不況の影響はモロに受けるが、だからといって会社がピンチになる可能性は低い
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「エナジーパートナー」と「フュエル&パワー」がメイン事業な点
この会社が今も成り立っているのはこの2つの事業がお金を稼いでくれるからです。
なので会社としては今後もこの2事業に注力していく可能性が非常に高い(≒会社側の需要が大いにある)ので、就活生のみなさんとしてもそれにマッチしていく必然性があるハズです。
「パワーグリッド」の利益効率が「フュエル&パワー」に次いで高い点
「エナジーパートナー」と「フュエル&パワー」の2つが現状のメイン事業ではあるのですが、会社として成長していくためにはこの2事業に頼った経営は限界が来ていることが売上と純利益の推移から推測出来ます。
そこで注目したいのが「パワーグリッド」です。
利益貢献度ではあまり目立たないのですが、その利益効率に目を向けると最も効率が良い「フュエル&パワー」に次いで2番目に効率が良いことがわかります。
現状でも売上貢献度では「フュエル&パワー」を抜かして2位であることから、東京電力が成長出来るか否かはこの「パワーグリッド」に掛かっているのではないかと推測出来ます。
そういう意味ではもしみなさんがこの会社に入社して「パワーグリッド」の部署に配属され、そこで目覚ましい成果を挙げることが出来たならば東京電力は会社として目覚ましい成長を遂げることが出来ると考えられます。
なので競合就活生との差別化と会社側の潜在的なニーズに応えるという両面から敢えて「パワーグリッドに携わりたいことを強くアピールする」という作戦が、もしかしたら有効になるかもしれません。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。