はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、丸紅を取り上げます。
目次
丸紅はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、つの事業に分けることが出来ます。
- 生活産業
- 食料分野、ライフスタイル分野、情報分野、物流分野、保険分野、金融・不動産投資分野、不動産開発分野
- 素材
- 化学品分野、農業化学品分野、紙パルプ分野
- エネルギー・金属
- エネルギー分野、金属分野
- 電力・プラント
- 発電事業・送変電事業、エネルギー関連インフラ事業、海水淡水化・上下水道事業、交通・インフラシステム事業及び産業プラントの各分野での開発・投資・運営・資産運転維持管理、関連機器の納入及び工事請負
- 輸送機
- 輸送関連機械の輸出入、卸売・小売。販売金融・リース事業・製品開発・各種サービス事業等への分野への投融資、各種貨物船・タンカー・LNG船等の取引・保有・運航事業
- その他
- グループファイナンス及びグループ会社向けの財務・金融業務等
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
※研究開発費及び設備投資費に関しては計上していないので今回は省略します。
売上 順位
- 1位:生活産業
- 2位:素材
- 3位:エネルギー・金属
- 4位:輸送機
- 5位:電力・プラント
- 6位:その他
利益 順位
- 1位:生活産業
- 2位:素材
- 3位:電力・プラント
- 4位:輸送機
- 5位:その他
- 6位:エネルギー・プラント
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
セグメント 総合順位
- 1位:生活産業(偏差値:69)
- 2位:素材(偏差値:56)
- 3位:電力・プラント(偏差値:47)
- 3位:輸送機(偏差値:47)
- 4位:エネルギー・金属(偏差値:42)
- 5位:その他(偏差値:40)
売上においても利益においてもメイン事業は「生活産業」と「素材」の2つということになっています。
しかし「エネルギー・金属」に関しては売上貢献度こそ高いものの、赤字ということであまりよろしくない事業のようです。
逆に「電力・プラント」と「輸送機」は売上貢献度こそ低いものの、利益貢献度がかなり高くなっているのでこの会社にとって「金の卵」である可能性が高いと思います。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:エネルギー・金属
- 2位:生活産業
- 3位:素材
- 4位:電力・プラント
- 5位:輸送機
- 6位:その他
利益/従業員数 順位
- 1位:電力・プラント
- 2位:素材
- 3位:輸送機
- 4位:生活産業
- 5位:その他
- 6位:エネルギー・金属
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:電力・プラント
- 2位:輸送機
- 3位:素材
- 4位:生活産業
- 5位:エネルギー・金属
- 6位:その他
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:電力・プラント(偏差値:66)
- 2位:素材(偏差値:52)
- 3位:輸送機(偏差値:51)
- 4位:生活産業(偏差値:50)
- 5位:エネルギー・金属(偏差値:49)
- 6位:その他(偏差値:31)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:生活産業(偏差値:69)
- 2位:素材(偏差値:56)
- 3位:電力・プラント(偏差値:47)
- 3位:輸送機(偏差値:47)
- 4位:エネルギー・金属(偏差値:42)
- 5位:その他(偏差値:40)
「従業員1人あたり」と「セグメント総合」を比較すると、「素材」はチーム力・個人技ともに安定した実績を残している優良事業で、「生活産業」はチーム力は高いものの個人技はそこまで強くないことがわかります。
そして「電力・プラント」は個人技では最強の事業であり、いまよりもっとこの事業に資金と人員を多く配分出来れば会社の成長を大いに後押しする要因になり得そうです。
そして「エネルギー・金属」ですが、いまの状況が続くのであれば早々に切り離した方が良さそうに見えます。
どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:米国
- 3位:その他
- 4位:シンガポール
商社ということでグローバルな印象があり、実際に全体の売上の約48%を海外が占めているのですがその程度で、思ったほどグローバルな企業ではなさそうです。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
流動比率はギリギリ100%を超えていますがそこまで余裕がある訳でもなさそうで、自己資本比率にいたってはかなり低い水準です。
「財務は健全か?」と聞かれたらお世辞にも「健全だ」とは言えません。
B:CF計算書
※単位は百万円
投資CFは営業CFの内々で収めており、財務CFも毎年マイナスになっているので設備投資もしつつ、しっかりと払うものは払っているようです。
割と堅実な経営をしているように見えます。
会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
売上高は多少の上下動をしていますが、純利益はガンガン伸びていっています。
このことから質と量が伴った純粋な成長というよりも利益体質が良くなりつつあるという意味で質のみは成長をしているようです。
営業CFが少なくっているのは少し気になりますが。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
2016年度時点では「微妙に悪い」ラインだったお金の使い方ですが、年度を経るにつれて良くなってきており、2018年度には「普通」ラインまで上がってきています。
さきの項目でも見ましたが、やはり利益を稼ぐ質は良くなってきているようです。
ただ自己資本比率の低さを鑑みるとちょっと低い数値なのではないかとも思います。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
設備投資は年度ごとでかなりバラツキがありますが比較的抑制しているようで、その結果毎年1,000億円以上の自由資金を残せています。
やはり堅実に経営しているようです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
売上・純利益ともに下降していっていますがそれでも黒字はキープしており、なんならば営業CFにいたっては安定して2,000億円以上を稼ぎ出しています。
なのでこの会社は不況の影響は受けるもののそこまで深刻な問題にはならずに潜り抜けられる可能性が高いものと思われます。
まとめ
これまで丸紅を数字で見てきたことをまとめると、
- ・メイン事業は「生活産業」と「素材」
- ・チーム力、個人技ともに事業として安定しているのは「素材」
- ・「電力・プラント」は会社にとって「金の卵」
- ・「エネルギー・金属」は全体の足を引っ張っている
- ・売上の約半分は海外から得ている
- ・財務はあまり健全ではない
- ・近年では利益効率が良くなりつつある
- ・経営は堅実な印象
- ・不況耐性は割とある方
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「素材」または「電力・プラント」に携わりたいことをアピールする
もっとも活動範囲が広く人員配置も多いがゆえに全体の収益貢献度も高くなっているのがメイン事業の「生活産業」ですが、個人技で見た時にはそこまで魅力的な事業ではないことを確認してきました。
それよりも会社にとって効率良く安定してそれなりの額の利益を稼げるのが「素材」であり、最も効率的に利益を稼げる「金の卵」が「電力・プラント」です。
ジャンルレスな「生活産業」はあらゆる事業に携われるという魅力があるので、そこを狙ってくる競合就活生のレベルはかなり高いと思われます。
なのでメイン事業であるという理由で真正面から「生活産業」を狙いに行ったら激しい競争にさらされることが想定されます。
なので「競合就活生との差別化」と「会社の需要へのマッチ」の2つの観点から、ESや面接で「素材」か「電力・プラント」に携わりたいことをピンポイントでアピールするのが最も効果的なのではないかと思います。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。