はじめに
ここでは日本の大手不動産デベロッパーの
- ・三井不動産(以下:三井)
- ・三菱地所(以下:三菱)
- ・住友不動産(以下:住友)
- ・東急不動産HD(以下:東急)
- ・野村不動産HD(以下:野村)
の5社を有価証券報告書に記載されている事柄から比較することで、イメージだけでなくその企業ひいてはその業界の「事実」の確認が出来ればと思っています。
目次
事業規模の比較(単位:百万円)
三井不動産
三菱地所
住友不動産
東急不動産HD
野村不動産HD
売上高 順位(2017年度)
1位:三井不動産(1兆7,044億円)
2位:三菱地所(1兆1,254億円)
3位:住友不動産(9,251億円)
4位:東急不動産HD(8,085億円)
5位:野村不動産HD(5,696億円)
純利益 順位(2017年度)
1位:三井不動産(1,318億円)
2位:住友不動産(1,034億円)
3位:三菱地所(1,026億円)
4位:野村不動産HD(470億円)
5位:東急不動産HD(315億円)
売上高においては三井が圧倒的なトップで、その下で三菱・住友・東急が競っていて、野村は事業規模としてはこの中では頭一つ小さいようです。
ですが純利益になると財閥系の3社はだいたい横並びで、独立系の2社は大きく劣後していることがわかります。
安全性の比較
三井不動産
三菱地所
住友不動産
東急不動産HD
野村不動産HD
流動比率 順位(3年平均)
1位:野村不動産HD
2位:三井不動産
3位:三菱地所
4位:住友不動産
5位:東急不動産HD
自己資本比率 順位(3年平均)
1位:三井不動産
2位:三菱地所
3位:野村不動産HD
4位:東急不動産HD
5位:住友不動産
さきほどの事業規模の順位とはうって変わって財務の健全性や安全性という面では野村が割と上位に付けています。
見る限りでは東急と住友が財務的には劣っている感じです。
利益性の比較
三井不動産
三菱地所
住友不動産
東急不動産HD
野村不動産HD
利益率 順位(3年平均)
1位:住友不動産
2位:三菱地所
3位:野村不動産HD
4位:三井不動産
5位:東急不動産HD
東急を除いた各社は利益率を最低でも7%は確保しています。
そして東急はその半分程度の利益率なので、この5社の中では特に東急は商売の効率が悪いと言えるでしょう。
ネットFCF 順位(3年平均)
1位:東急不動産HD
2位:三菱地所
3位:野村不動産HD
4位:住友不動産
5位:三井不動産
どこもかしこもマイナスになっているので総じて「お金使い過ぎ」なことに変わりはないのですが、直近はプラスを確保しているということを見ると、敢えて言えば東急が一番マシな経営をしていると言えます。
他はどこもかしこも「大丈夫?」と聞きたくなるほどとにかく「お金を使い過ぎ」です。
ですがこれは不動産業界ならばある程度仕方がないのかもしれません。
というのも、不動産会社は仲介専門でもない限り「物件の仕入れや開発」で大量のお金を使うので得てして「営業CF」か「投資CF」に大きなマイナスが計上されるからです。
建設代金は先に払わなければいけませんが、物件(つまり売り物)が完成して、売ってキャッシュになるまで年単位でかかります。
その間のCFの赤字を財務CFのプラスで補うのがだいたいのパターンです。
ざっくり言うと不動産会社は「いかに借金などで資金調達をして食いつないでいけるかどうか」が経営のキモだったりします。
実質設備投資/営業CF 順位(3年平均)
1位:三菱地所
2位:住友不動産
3位:東急不動産HD
4位:三井不動産
5位:野村不動産HD
この項目は見るのもイヤなんですがいちおう数値を見ると、各社がいかに身の丈を超えた設備投資を行っているか、が一目瞭然だと思います。
事業セグメントの比較
三井不動産
三菱地所
住友不動産
東急不動産HD
野村不動産HD
各社のセグメント別の売上と利益の構成は上記のようになりますが、ここで不動産デベロッパーの主要事業である「賃貸」「分譲」の売上比率と利益比率を抜き出して比較してみましょう。
売上 賃貸比率 順位
1位:三菱地所
2位:住友不動産
3位:東急不動産HD
4位:三井不動産
5位:野村不動産HD
野村以外はおしなべて全体の3分の1以上の売上を賃貸によって稼ぎ出しているようです。
特に三菱地所の賃貸の比率はかなり大きいですね。
売上 分譲比率 順位
1位:野村不動産HD
2位:三菱地所
3位:住友不動産
4位:三井不動産
5位:東急不動産HD
分譲の比率は野村が飛びぬけて高く、東急が低いようです。
利益 賃貸比率 順位
1位:三菱地所
2位:住友不動産
3位:東急不動産HD
4位:三井不動産
5位:野村不動産HD
売上の項目でも見ましたが、三菱地所の利益は見た目以上にかなり賃貸に偏重していることがわかります。
そしてどこも賃貸の売上比率は3分の1程度だったのが利益比率になるとだいたい半分を超えていることがわかります。
つまり、どこもだいたい賃貸は利益効率の良い商売になっているということです。
利益 分譲比率 順位
1位:野村不動産HD
2位:住友不動産
3位:三井不動産
4位:東急不動産HD
5位:三菱地所
そして分譲の売上比率と利益比率を比較するとおしなべて「売上比率>利益比率」となっていることから、賃貸とは対照的に分譲は事業としては重要だけどその利益効率はあまり良くないということになるでしょう。
いちおう各社の有名な主要物件を下記しますのでよければご参考までにどうぞ。
まとめ
これまで見てきた5社の特徴をまとめると以下のようになると思います。
三井不動産
- ・事業規模は圧倒的に国内トップ
- ・賃貸と分譲は他社と同じで重要な事業だが、商業施設などの管理を行う「マネジメント事業」の売上と利益の貢献度が非常に高いのが他社と決定的に違う
三菱地所
- ・事業規模は国内2位
- ・賃貸が一番の稼ぎ頭で、5社の中で一番偏重している
住友不動産
- ・事業規模は国内3位
- ・色んな意味で中間に位置する
東急不動産HD
- ・事業規模は国内4位
- ・利益効率と財務比率は5社中で飛びぬけて悪い
- ・ただ設備投資にはそこまでお金をかけておらず、そういう意味では5社の中では一番「身の丈に合った」堅実な経営をしている
野村不動産HD
- ・事業規模は5社の中では圧倒的に小さい
- ・財務は安定している
- ・しかし5社の中で一番「身の丈を超えた」超積極的な経営をしている
志望動機として使えそうな点
三井不動産
国内トップの事業規模を誇ること
業界最大手の看板とブランドを背負って働きたい人には良いかもしれない
他社の経営は「賃貸」と「分譲」の2本槍なのに対して、この会社の経営は「賃貸」「分譲」「マネジメント」の3本槍であること
「マネジメント」の仕事に興味がある人にはこの会社が一番良いかもしれない
三菱地所
オフィスビル賃貸に経営が偏重していること
オフィスビル賃貸の仕事に携わりたいのならこの会社が一番良いかもしれない
住友不動産
あらゆる意味で中道を行っており特徴的なものはないが、手堅く利益を出していること
悪く言うと「特徴がない」「地味」だが、その実は売上高国内3位かつ純利益額国内2位としっかり儲けている「手堅い」会社であるため、そういう嗜好の人には一番良いかもしれない
東急不動産HD
「分譲事業」の売上と利益の貢献度が低いこと
逆説的に住宅やマンションの分譲を「やりたくない」という人には一番良いかもしれない
野村不動産HD
超積極的な経営をしていること
不動産業界において、リスクを取ってチャレンジしたい人にはこの会社が一番良いかもしれない
これまでまとめてきた事項は数字を元にした会社の実態ではありますが、より正確に実態を掴むためにも説明会で質問してみたり実際に社員の人にあったりして、調べた情報とズレていないかどうかを確認してみた上で、ESや面接で使用することをおすすめします。