はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、住友商事(以下:住商)を取り上げます。
目次
住商はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、6つの事業に分けることが出来ます。
- 金属
- 鋼鉄及び非鉄金属製品の国内・貿易取引、加工及び関連事業を推進。
- 輸送機・建機
- リースビジネス、並びに船舶・航空機・鉄道交通システム・自動車・建設機械及び関連機器・部品の国内・貿易取引及び関連事業を推進。
- 環境・インフラ
- 海外における発電事業及び電力機器・プラント関連建設工事請負・エンジニアリング、国内電力小売り、風力・太陽光・地熱発電等の再生可能エネルギー関連事業、工業設備等の産業インフラビジネス、水事業、環境関連ビジネス、蓄電池関連ビジネス、物流・保険・海外工業団地関連事業等を推進。
- メディア・生活関連
- ケーブルテレビ事業・映像コンテンツ関連事業等のメディア事業、ITサービス事業、携帯電話・通信事業、ベンチャー投資、テレビ通販、EC事業、食品スーパー、ドラッグストア、ブランド事業、食料・食品等の原材料及び製品の取扱い、セメント、木材、建材等の各種生活関連資材の取扱い及び、ビル、商業施設、住宅、物流施設、ファンド等の不動産事業を推進。
- 資源・化学品
- 石炭・鉄鉱石・非鉄金属原料・ウラン・原油及び天然ガス・LNG等の開発・貿易取引、商品デリバティブの売買等、石油製品・LPG・炭素関連原材料及び製品・合成樹脂・有機及び無機化学品・医薬・農薬・肥料・動物薬・電子及び電池材料の国内・貿易取引及び関連事業、並びに基板実装事業を推進。
- 海外現地法人・海外支店
- 海外の主要な拠点において、多種多様な活動を推進。
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
※研究開発費・設備投資費は計上されていなかったので、今回は省略します。
売上 順位
- 1位:海外現地法人・海外支店
- 2位:メディア・生活関連
- 3位:資源・化学品
- 4位:輸送機・建機
- 5位:金属
- 6位:環境・インフラ
利益 順位
- 1位:メディア・生活関連
- 2位:輸送機・建機
- 3位:海外現地法人・海外支店
- 4位:環境・インフラ
- 5位:金属
- 6位:資源・化学品
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
セグメント 総合順位
- 1位:メディア・生活関連(偏差値:64)
- 2位:海外現地法人・海外支店(偏差値:62)
- 3位:輸送機・建機(偏差値:51)
- 4位:金属(偏差値:44)
- 5位:環境・インフラ(偏差値:42)
- 6位:資源・化学品(偏差値:37)
売上・営業利益ともに割と分散されているイメージですが、その中でも「メディア・生活関連」の事業としてのクオリティの高さが目立ちます。
「海外現地法人・海外支店」は多様な業種をミックスしたものになるので事業としてクオリティが高いというよりは海外での事業で成功しているといった感じだと思います。
そして逆に「資源・化学品」は売上貢献度こそ高いものの、営業利益においては全体の足を大きく引っ張っていることがわかります。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:資源・化学品
- 2位:環境・インフラ
- 3位:金属
- 4位:海外現地法人・海外支店
- 5位:メディア・生活関連
- 6位:輸送機・建機
利益/従業員数 順位
- 1位:環境・インフラ
- 2位:輸送機・建機
- 3位:メディア・生活関連
- 4位:金属
- 5位:海外現地法人・海外支店
- 6位:資源・化学品
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:輸送機・建機
- 2位:環境・インフラ
- 3位:メディア・生活関連
- 4位:金属
- 5位:海外現地法人・海外支店
- 6位:資源・化学品
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:環境・インフラ(偏差値:69)
- 2位:輸送機・建機(偏差値:54)
- 3位:金属(偏差値:49)
- 4位:メディア・生活関連(偏差値:47)
- 5位:海外現地法人・海外支店(偏差値:45)
- 6位:資源・化学品(偏差値:36)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:メディア・生活関連(偏差値:64)
- 2位:海外現地法人・海外支店(偏差値:62)
- 3位:輸送機・建機(偏差値:51)
- 4位:金属(偏差値:44)
- 5位:環境・インフラ(偏差値:42)
- 6位:資源・化学品(偏差値:37)
チーム力では1位だった「メディア・生活関連」は個人技では大きく順位を落としており、逆にチーム力では下位だった「環境インフラ」が個人技では1位となっています。
「資源・化学品」は個人技でも相変わらずですが、全体的に見るとチーム力が高い事業の個人技は弱く、チーム力が弱い事業の個人技は強いというよくわからないことになっています。
単純に考えれば「個人技が強い事業に投下人員を多くして、個人技が弱い事業には投下人員をあまり割かない」というようにすれば「選択と集中」という観点から行くと最も合理的なように思えますが、そんなことは誰でも思いつくので事業の構造上の問題で現状のようにせざるを得ない理由がありそうです。
どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:米国
- 3位:アジア
- 4位:欧州
- 5位:その他
- 6位:その他北米
日本が地域別売上ではトップですが、海外売上比率は50%を優に超えているのでいわゆるグローバル企業と言えるでしょう。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
どちらの数値とも直近3年間では安定していますが、自己資本比率に関してはそもそもの水準が割と低めなのであまり財務は健全だとは言えないでしょう。
B:CF計算書
※単位は百万円
かなりキレイなCF計算書なので、経営は堅実だと思います。
ただ2018年度の純利益>営業CFは少し気になります。
会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
純利益及び純利益率はけっこうな勢いで伸びているのでそこだけ見ると成長しているように見えますが、売上高と営業CFがデコボコしているので成長軌道に乗っているとは何とも言い難いです。
ただ純利益率は改善傾向にあるのでどちらかというと量より質の方が良くなっていると言えると思います。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
さきの純利益率の項目でも確認しましたが、ROEに関しても年々良くなってきています。
3年前はお金の使い方が「下手」な水準だったのが、いま現在ではどちらかと言うと「上手」な水準まで上がってきているのは非常に良い傾向だと思います。
自己資本比率がここ3年間でほとんど変わっていないことからも、やはり利益を稼ぐ質が近年では段々良くなってきているようです。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
2016年度のみ設備投資にお金をほとんど使っていないようですが、それ以外の年度では平均すると営業CFの内約45%を設備投資に使っていることから、特筆して事業維持にお金がかからない効率的な事業を営んでいるとは言い難いです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
純利益は黒字をキープしているのでその点では会社の存続的には全然余裕なのですが、営業CFを除く3つの数値が徐々に下がってきていることから景気の影響は受けるには受けるようです。
まとめ
これまで住商を数字で見てきたことをまとめると、
- ・事業のクオリティは「メディア・生活関連」と海外事業が高い
- ・個人技ベースでは「環境・インフラ」が圧倒的に強い
- ・海外事業で成功している
- ・財務基盤は少し弱め
- ・経営は堅実に見える
- ・近年では利益を稼ぐ質が改善傾向にあり、お金の使い方も劇的に上手くなってきている
- ・事業効率はフツウ
- ・景気の影響は受けるが、会社の存続を脅かすほどではない
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「環境・インフラ」と「輸送機・建機」を攻める
セグメントの総合順位と個人技の順位とでは大きく乖離があり、事業の構造上何か一筋縄では行かない問題がありそうな感じでしたが、いずれにせよデータから読み取れるのは個人技のレベルが高い「環境・インフラ」と「輸送機・建機」に投下人員と投下資本を増強出来れば会社の成長を後押し出来そうだということです。
なのでシンプルに考えてその2つの事業に会社の需要があるとすると、その2つの事業に携わりたいことをアピールするのが合理的なのではないかと思います。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。