ここでは日本の大手化学メーカーの
- ・三菱ケミカルホールディングス(以下:三菱ケミカル)
- ・住友化学
- ・三井化学
- ・信越化学工業(以下:信越化学)
- ・旭化成
の5社を有価証券報告書に記載されている事柄から比較することで、イメージではなくその企業ひいてはその業界の「事実」の確認が出来ればと思っています。
目次
①主要子会社・関連会社の比較
②事業規模の比較(単位:百万円)
売上 順位
- 1位:三菱ケミカル
- 2位:住友化学
- 3位:旭化成
- 4位:信越化学
- 5位:三井化学
純利益 順位
- 1位:三菱ケミカル
- 2位:信越化学
- 3位:旭化成
- 4位:住友化学
- 5位:三井化学
売上高でも純利益でも三菱ケミカルが頭一つ抜けた事業規模を誇っていることがわかります。
それぞれの項目の2位以下は売上高の順位と純利益の順位が割とチグハグな印象です。
③安全性の比較
流動比率 順位
- 1位:信越化学
- 2位:三井化学
- 3位:旭化成
- 4位:住友化学
- 5位:三菱ケミカル
自己資本比率 順位
- 1位:信越化学
- 2位:旭化成
- 3位:住友化学
- 4位:三菱ケミカル
- 5位:三井化学
2位以下はだいたい同じような感じですが、1位の信越化学は一社だけ段違いの財務基盤の強さを示しています。
「なんでこんなにお金を貯め込んでいるんだ?」という感じです。
④利益性の比較
純利益率 順位
- 1位:信越化学
- 2位:旭化成
- 3位:三菱ケミカル
- 4位:住友化学
- 5位:三井化学
信越化学がぶっちぎりで1位です。
他は得てして言えば旭化成が少し高いくらい。
ネットFCF 順位
- 1位:信越化学
- 2位:住友化学
- 3位:三菱ケミカル
- 4位:三井化学
- 5位:旭化成
売上規模では4位だった信越化学ですが、純利益額が2位だった影響か信越化学がまたしてもこの項目では1位となっています。
実質設備投資/営業CF 順位
- 1位:三井化学
- 2位:信越化学
- 3位:住友化学
- 4位:三菱ケミカル
- 5位:旭化成
ここのところ絶好調の信越化学ですがこの項目では2位となっており、代わりに三井化学が1位となっています。
設備投資の負担が割合に大きい化学メーカーとしてはかなり低い数値の設備投資比率に思えます。
在庫回転率 順位
- 1位:三菱ケミカル
- 2位:旭化成
- 3位:三井化学
- 4位:住友化学
- 5位:信越化学
在庫回転率に関しては上記3項目ほど各社間に差異はないようです。
⑤コスト&研究開発費の比較
販管費/売上 順位
- 1位:信越化学
- 2位:三井化学
- 3位:三菱ケミカル
- 4位:旭化成
- 5位:住友化学
ここでも信越化学が1位となっています。
そして三井化学は2位となっていることから、どうやらコスト効率に関してはけっこう良さそうなことがわかります。
研究開発費/売上 順位
- 1位:三井化学
- 2位:三菱ケミカル
- 3位:信越化学
- 4位:旭化成
- 5位:住友化学
研究開発費/売上では三井化学がトップに立っており、三菱ケミカルがそれに続きます。
なお三菱ケミカルは2位とは言うものの、売上規模は他の4社の2~3倍くらいあるので金額ベースでは計上している研究開発費は5社の中で多い方ということになります。
⑥従業員1人あたりの売上&利益の比較
売上/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:三井化学
- 2位:住友化学
- 3位:信越化学
- 4位:旭化成
- 5位:三菱ケミカル
売上規模では5位だった三井化学ですが、個人技となると2位以下にけっこうな差をつけての1位ということになっています。
つまりはチームとしての売上を挙げる力はそこまでだけれども、個人技ベースではかなり優秀ということになります。
営業利益/従業員(単位:百万円) 順位
- 1位:信越化学
- 2位:三井化学
- 3位:旭化成
- 4位:住友化学
- 5位:三菱ケミカル
ただ営業利益となると三井化学は他社とそこまで変わらない数値になり、順位も2位になります。
代わりに圧倒的な強さを見せつけて信越化学が1位となっています。
1人あたり営業利益/売上 順位
- 1位:信越化学
- 2位:旭化成
- 3位:三井化学
- 4位:住友化学
- 5位:三菱ケミカル
営業利益率でも信越化学がぶっちぎりの1位となっています。
そして地味に旭化成が2位につけています。
ちなみに事業規模トップの三菱ケミカルは個人技3項目でいずれも最下位なので、チーム力(主に投下人員数の多さなど)で個人技をカバーしているようです。
⑦事業セグメントの比較
三菱ケミカル
※
- エレクトロニクス・アプリケーションズ
- 記録材料、電子関連部品、情報材料
- デザインド・マテリアルズ
- 食品機能材、電池材料、精密化学品、樹脂加工品、無機化学品
- ヘルスケア
- 診断製品、臨床検査、製剤材料
- ケミカルズ
- 基礎石化製品、化成品、合成繊維原料、炭素製品
- ポリマーズ
- 合成樹脂
かなり分散された事業ポートフォリオを持っているようです。
その中でも「ヘルスケア」は現状で利益効率が最も良く、なおかつ利益貢献度も最も高い優良事業のようです。
住友化学
※
- 石油化学
- 石油化学品、無機薬品、合繊原料、有機薬品など
- エネルギー・機能材料
- アルミナ製品、アルミニウム、化成品、添加剤など
- 情報電子化学
- 光学製品、カラーフィルター、半導体プロセス材料など
- 健康・農業関連
- 農薬、肥料、農業資材、家庭用・防疫用殺虫剤、医薬化学品など
- 医薬品
- 医療用医薬品、放射性診断薬など
- その他
- 電力・蒸気の供給、化学産業設備の設計・工事監督など
売上貢献度は「石油化学」が一番ですが、この会社もそれ以外に分散された事業ポートフォリオを持っており、利益貢献度と利益効率の観点から行くと「健康・農業関連」が稼ぎ頭で、「医薬品」がそれに続きます。
ただ利益効率だけを見ると「その他」もかなり効率が良い事業のようです。
三井化学
※
- モビリティ
- エラストマー、機能性コンパウンド、機能性ポリマーなどの製造・販売及び自動車等工業製品の新製品開発支援業務
- ヘルスケア
- ビジョンケア材料、不織布、歯科材料及びパーソナルケア材料
- フード&パッケージング
- コーティング・機能材、機能性フィルム・シート及び農薬
- 基盤素材
- 石化原料(エチレン・プロピレン等)、ポリエチレン、ポリプロペン、触媒など
- その他
- その他業務
売上高に関しては「モビリティ」と「基盤素材」が2トップとなっていますが、利益に関しては「モビリティ」に思いっきり偏っていることがわかります。
ただ利益効率に関しては「モビリティ」「ヘルスケア」「フード&パッケージング」の3つはだいたい同じくらいの利益効率なようです。
信越化学
※
- 塩ビ・化成品
- 塩化ビニル筋、か性ソーダ、メタノール、クロロメタン
- シリコーン
- シリコーン
- 機能性化学品
- セルロース誘導体、金属珪素、ポバール、合成性フェロモン、塩ビ・酢ビ系共重合樹脂
- 半導体シリコン
- 半導体シリコン
- 電子・機能材料
- 希土類磁石(電子産業用・一般用)、半導体用封止材、LED用パッケージ材料など
- 加工・商事・技術・サービス
- 樹脂加工製品、技術・プラント輸出、商品の輸出入、エンジニアリング
売上高は若干「塩ビ・化成品」の割合が大きいですが、利益に関してはかなり分散されており、利益効率に関しても「加工・商事・技術・サービス」以外はいずれの事業も営業利益率が10%超えという中々に充実した事業ポートフォリオを持っていることがわかります。
事業のクオリティが一番高いものを敢えて挙げるとするならば利益貢献度と利益効率の観点から「電子・機能材料」ということになると思います。
旭化成
※
- マテリアル
- 繊維事業、ケミカル事業(石油化学、機能性ポリマー、高機能マテリアルズ・消費財)、エレクトロニクス事業(セパレータ、電子部品)
- 住宅
- 住宅事業、建材事業
- ヘルスケア
- 医薬事業、医療事業、クリティカルケア事業
- その他
- エンジニアリング事業、各種リサーチ・情報提供事業、人材派遣・紹介事業等
売上と利益の各貢献度を見ると、この会社は「マテリアル」と「住宅」の2つをメイン事業として成り立っていることがわかります。
ただ利益効率では「その他」が異常な数値を叩き出しており、その他の3事業は割と似通った利益効率を示しています。
ここで海外売上比率を確認しておきます。
5社とも海外展開はしているようですが、中でも信越化学と住友化学の2社は他の3社よりも海外展開が進んでいることがわかります。
⑧まとめ
これまで見てきた 社の順位を「利益性」「コスト」「安全性」「チーム力」「個人技」の括りで下記します。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※平均以下の項目を赤字で示しています。
利益性 総合順位
- 1位:信越化学(偏差値:67)
- 2位:三菱ケミカル(偏差値:55)
- 3位:旭化成(偏差値:43.14)
- 4位:住友化学(偏差値:42.50)
- 5位:三井化学(偏差値:41.67)
売上規模では下位でしたが、それ以外の項目で高順位を連発した信越化学が総合的な利益性ではぶっちぎりのトップです。
そして三菱ケミカルは個人技では軒並み最下位でしたがその事業規模がプラスに働いた結果2位ということになっています。
3位~5位はものすごい接戦なので、この3社間にはそこまで極端な差はないようです。
コスト 総合順位
- 1位:三井化学(偏差値:64)
- 2位:信越化学(偏差値:59)
- 3位:三菱ケミカル(偏差値:47)
- 4位:旭化成(偏差値:42)
- 5位:住友化学(偏差値:38)
コスト効率では三井化学が信越化学の猛追を振り切って1位となっています。
安全性 総合順位
- 1位:信越化学(偏差値:70)
- 2位:旭化成(偏差値:48)
- 3位:住友化学(偏差値:45)
- 4位:三井化学(偏差値:44)
- 5位:三菱ケミカル(偏差値:43)
財務の健全性に関しては言わずもがなで信越化学の圧勝です。
そしてこの項目も2位~5位の間に差異はあまりないようです。
チーム力 総合順位
- 1位:三菱ケミカル(偏差値:63)
- 2位:信越化学(偏差値:59)
- 3位:旭化成(偏差値:48)
- 4位:住友化学(偏差値:43)
- 5位:三井化学(偏差値:36)
チーム力では事業規模の大きさが思いっきりプラスに働き、三菱ケミカルが1位となっています。
そして売上規模では下位ランカーだった信越化学が純利益と純利益率の項目で巻き返して2位となっています。
ちなみに三井化学は売上高・純利益・純利益率全てで最下位を記録しているようです。
個人技 総合順位
- 1位:信越化学(偏差値:67)
- 2位:三井化学(偏差値:53)
- 3位:旭化成(偏差値:47)
- 4位:住友化学(偏差値:45)
- 5位:三菱ケミカル(偏差値:37)
チーム力では2位に甘んじていた信越化学ですが、個人技ではこれまたぶっちぎりのトップです。
そしてチーム力では最下位だった三井化学は個人技では2位となっているため、この会社は投下人員数が多くなればチーム力もかなり強くなるのではないかと思われます。
三菱ケミカルは個人技は弱いようです。
総合順位
- 1位:信越化学(偏差値:68)
- 2位:三井化学(偏差値:49.51)
- 3位:三菱ケミカル(偏差値:49.49)
- 4位:旭化成(偏差値:43)
- 5位:住友化学(偏差値:40)
総合では財務基盤・個人技の強さが光った信越化学が2位以下を大きく引き離して1位となっています。
なお事業規模で約3倍の差があった三井化学と三菱ケミカルですが、三井化学がその大きなハンデを他の項目でカバーして大接戦の末に2位となり、三菱ケミカルは事業規模での大きなリードを守り切れずに3位ということになっています。
各社の特徴をまとめると以下のようになります。
- 強み:チーム力
- 弱み:個人技
- 強み:特になし
- 弱み:コスト効率
- 強み:コスト効率、個人技
- 弱み:チーム力
- 強み:財務の健全性、個人技
- 弱み:特になし
- 強み:特になし
- 弱み:コスト効率
⑨志望動機として使えそうな点
三菱ケミカル
事業規模が業界最大である点
個人技ベースではあまり強くないこの会社ですが、事業規模という観点では業界会い大手であることは間違いないと思われます。
なので「業界最大手の看板を背負って働きたい」という人には最も向いているかもしれません。
住友化学
海外売上比率が60%を超えている点
経営成績を示す数値では5社の中ではこれといった特徴がなさそうなこの会社ですが、海外展開はかなり進んでいることを確認してきました。
なので「海外での業務に携わりたい」という人にとっては向いているかもしれません。
三井化学
個人技のレベルは高い点
事業規模では下位ランカーでしたが、個人技で見るとかなり優秀であることを確認してきました。
なので「優秀な人材がいる環境の中で揉まれて成長していきたい」という人にとっては向いていると思います。
信越化学
あらゆる面から見て業界最優良企業である点
異常に高い財務基盤・利益効率の良さ・圧倒的な個人技の強さなど、あらゆる面から見てこの会社は業界最優良企業であると言えます。
なので「業界で最優良企業で働きたい」という人にとっては最も向いていると思います。
ただその会社としてのクオリティを維持するために、業務はハードな可能性があるのでそこらへんは会社の人にどのような感じか探りを入れておいた方が良いと思います。
旭化成
5社の中では割と平均的な会社である点
数値を見ていく中でこれといった目立った強みがない代わりに、これといった目立った弱みもないのがこの会社の特徴だと思います。
なので「派手じゃなくても良いので、堅実に仕事をしていきたい」という人の方がこの会社には向いていると思います。
これまでまとめてきた事項は数字を元にした会社の実態ではありますが、より正確に実態を掴むためにも説明会で質問してみたり実際に社員の人に会ったりして、調べた情報とズレていないかどうかを確認してみた上で、ESや面接で使用することをおすすめします。