企業の実態を丸裸!~有価証券報告書を使った企業研究~ 「日本郵船編」

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海運業界
2019年09月10日
海,夕方

はじめに

この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。

なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。

では就活人気企業として、日本郵船を取り上げます。

目次

  1. どんな仕事の種類があるのか
  2. どこの国で仕事をしているのか
  3. 会社の安定性を測る指標
  4. 会社の成長性を測る指標
  5. 投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
  6. まとめ
  7. ES・面接での想定訴求ポイント

日本郵船はいったいどんな商売をしているのでしょうか?

最新の有価証券報告書から抜粋すると、6つの事業に分けることが出来ます。

定期船
定期船による国際的な海上貨物輸送、船舶貸渡業、コンテナターミナル業、港湾輸送業、曳船業
航空運送
日本貨物航空(株)などによる航空運送業
物流
倉庫業、貨物運送取扱業、沿海貨物海運業をグローバルに展開し、海・陸・空の総合物流ネットワークを提供
不定期専用船
不定期船による国際的な海上貨物輸送、船舶貸渡業、その他海運事業
不動産
不動産の賃貸・管理・販売
その他
客船事業、情報処理サービス業、機械器具卸売業(船舶用)、石油製品の卸売業、その他運輸付帯サービス業、その他各種事業
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どんな仕事の種類があるのか

各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。

表11

※研究開発費は計上されているものの、セグメントごとの開示はされていなかったため今回の記載は省略します。

売上 順位

  • 1位:不定期専用船
  • 2位:定期船
  • 3位:物流
  • 4位:その他
  • 5位:航空運送
  • 6位:不動産

売上は「不定期専用船」「定期船」「物流」の3本柱のようです。

利益 順位

  • 1位:不定期専用船
  • 2位:物流
  • 3位:不動産
  • 4位:航空運送
  • 5位:その他
  • 6位:定期船

しかし営業利益となると売上の3本柱の1つだった「定期船」は姿を消し、代わりに「不動産」の存在感が大きくなっています。

そして「不定期専用船」は営業利益全体の5割以上を占めていることから、この会社のメイン事業であることがわかります。

設備投資額 順位(少ない順)

  • 1位:その他
  • 2位:不動産
  • 3位:物流
  • 4位:航空運送
  • 5位:定期船
  • 6位:不定期専用船

メイン事業であるが故に設備投資費用もかなりかかっています。

ただ「定期船」に関しては営業利益ベースで赤字なのにも関わらずかなり設備投資費用を食っているようです。

順位をまとめると以下のようになります。

表8

※下位項目を赤字で示しています。

※偏差値を併記しておきます。偏差値の平均は50です。

セグメント 総合順位

  • 1位:不定期専用船(偏差値:55)
  • 1位:物流(偏差値:55)
  • 2位:その他(偏差値:51)
  • 3位:不動産(偏差値:49)
  • 4位:航空運送(偏差値:45)
  • 4位:定期船(偏差値:45)

セグメント総合ではメイン事業である「不定期専用船」と並んで「物流」も1位フィニッシュです。

利益の割には設備投資費用がかからないことが順位を押し上げた形になっています。

そして設備投資の費用対効果として最も効率的と思われるその他がなんだかんだで3位に食い込んでいます。

ただ4位の不動産との差はそこまでないようです。

セグメント全体を見ても各セグメント間で飛び抜けた差はなく、割とバランスが取れている印象です。

次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。

表6

※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円

売上/従業員数 順位

  • 1位:不定期専用船
  • 2位:不動産
  • 3位:航空運送
  • 4位:定期船
  • 5位:その他
  • 6位:物流

不定期専用船」が圧倒的な数値を叩き出しての1位で、セグメント総合1位の「物流」はここでは最下位に沈んでいます。

利益/従業員数 順位

  • 1位:不動産
  • 2位:不定期専用船
  • 3位:航空運送
  • 4位:その他
  • 5位:物流
  • 6位:定期船

ただ営業利益となると「不動産」が異次元の強さを見せています。

そして個人技となると「物流」と「その他」の営業利益を稼ぐ力は同じくらいのようです。

1人あたり利益/売上 順位

  • 1位:不動産
  • 2位:航空運送
  • 3位:不定期専用船
  • 4位:物流
  • 5位:その他
  • 6位:定期船

言わずもがなで「不動産」が圧倒的な利益効率性を見せつけての1位です。

ここまであまり目立ってこなかった「航空運送」は「不定期専用船」を僅差でかわして2位になっていることから、「航空運送」は全体への貢献度は「不定期専用船」とかなり違うけれども利益効率性では遜色ない事業であるということがわかります。

順位をまとめると以下のようになります。

表3

※下位項目を赤字で示しています。

※偏差値を併記しておきます。偏差値の平均は50です。

従業員1人あたり 総合順位

  • 1位:不動産(偏差値:63)
  • 2位:不定期専用船(偏差値:59)
  • 3位:航空運送(偏差値:55)
  • 4位:その他(偏差値:43)
  • 5位:物流(偏差値:41)
  • 6位:定期船(偏差値:39)

(参考)

セグメント 総合順位

  • 1位:不定期専用船(偏差値:55)
  • 1位:物流(偏差値:55)
  • 2位:その他(偏差値:51)
  • 3位:不動産(偏差値:49)
  • 4位:航空運送(偏差値:45)
  • 4位:定期船(偏差値:45)

セグメント総合では各セグメント間でそこまで差がなかったですが、個人技となるとかなり差がついていることがわかります。

中でも「不動産」の個人技は最強で、「不定期専用船」がそれに続く2番手として存在しています。

そして「定期船」の個人技はセグメントの中でも最弱なようです。

どこの国で仕事をしているのか

表12

地域別 順位

  • 1位:日本
  • 2位:アジア
  • 3位:北米
  • 4位:欧州
  • 5位:その他

メインの市場は日本を含むアジア圏のようです。

北米と欧州もそれなりにありますが、いまのところかなりドメスティックな企業のようです。

会社の安定性を測る指標

  • A:流動比率&自己資本比率
  • B:CF計算書

A:流動比率&自己資本比率

表1

流動比率はそこまで問題なさそうですが、自己資本比率はけっこう低い部類に入ります。

かなり借金依存体質なようです。

B:CF計算書

表9

※単位は百万円

営業CFが純利益よりも大きいものの投資CFでかなりのお金を使い、足りない分を財務CFでの資金調達によってまかなっているようです。

少なくとも堅実な経営をしているとは言えません。

どちらかと言うとかなり「攻め」の経営をしているようです。

会社の成長性を測る指標

表7

※単位は百万円

業績はデコボコしていて一貫性がなく、赤字の年もあるので成長軌道にあるとは言えない状態です。

投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い

  • A:ROE(自己資本利益率)
  • B:FCF(フリーキャッシュフロー)
  • C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移

A:ROE(自己資本利益率)

ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て

  • 5%未満=最悪
  • 5%=微妙に悪い
  • 10%=普通
  • 15%=まあまあ良い
  • 20%以上=素晴らしい

となります。

ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。

表10

2017年の大きなマイナスが響いて3年平均では「論外」ということになっていますが、それを差し引いてもお金の使い方はかなり下手なようです。

これで自己資本比率が高ければまだ救いがあったのですが、自己資本比率で30%台でROEがこれだとかなりゲンナリしてしまいます。

B:FCF(フリーキャッシュフロー)

表4 width=

※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円

2016年度のみ設備投資を抑えていますが、それでも他の2年ではかなりお金を使っているため3年平均でも事業維持にかなりお金がかかるということになっています。

事業としての効率はかなり悪いようです。

C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移

表2

※単位は百万円

営業CFがプラス圏を維持しているので景気変動によって会社の根本が揺らぐことは無さそうですが、それでも景気変動の影響はかなり強く受けるようです。

まとめ

これまで日本郵船を数字で見てきたことをまとめると、

  • ・会社全体でのメイン事業は「不定期専用船」と「物流」
  • ・個人技ベースでは「不動産」が最強で「不定期専用船」がそれに続く
  • ・海外展開はあまり進んでいない
  • ・財務体質は良いとは言えない
  • ・経営は現状「攻めている」(というか堅実ではない)
  • ・成長軌道にはない
  • ・お金の使い方はかなり下手
  • ・事業維持のコストが滅茶苦茶にかかっている
  • ・景気変動の影響はかなり受ける

ということになるでしょう。

ES・面接での想定訴求ポイント

ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。

「不動産」に携わりたいことをアピールする

この会社のメイン事業は世間一般のイメージ通りに「不定期専用船」と「物流」ということを上記で確認してきました。

単純な論理で行けば会社側の需要があると思われるので「不定期専用船」と「物流」に携わりたいことをESや面接でアピールしていけばいいと思うのですが、ただ「世間一般イメージ通り」ということを鑑みると、同じことをアピールしてくる競合就活生は多いことが想定されます。

ということでよほどのスペックの高さと面接官との相性の良さがない限りは正攻法を使っても弾かれる可能性が高いので、例のごとく差別化のために敢えて「不動産」に携わりたいことをアピールするのがよいのではないかと思います。

少なくとも「不定期専用船」と「物流」よりかは面接官の印象には残りやすいのではないかということと、「不動産」は売上規模は小さいですが営業利益額は「物流」に引けを取らないどころか個人技に至ってはセグメント内最強なので会社側としても需要があると考えます。

有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。

有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。