はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、富士通を取り上げます。
目次
富士通はいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、4つの事業に分けることが出来ます。
- 「テクノロジーソリューション」(以下:テクノロジー)
- システムインテグレーション、コンサルティング、フロントテクノロジー、アウトソーシング、クラウドサービス、ネットワークサービスなど
- 「ユビキタスソリューション」(以下:ユビキタス)
- パソコン
- 「デバイスソリューション」(以下:デバイス)
- LSI、電子部品(半導体パッケージ、電池、機構部品、光送受信モジュール、プリント板など)
- 「その他」
- 空調機・情報通信機器及び電子デバイス製品の開発・製造・販売・サービスの提供、情報処理機器・通信機器等の賃貸及び販売、SoCの設計・開発・サービスの提供、全社機能など
①どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
売上 順位
- 1位:テクノロジー
- 2位:ユビキタス
- 3位:デバイス
- 4位:その他
利益 順位
- 1位:テクノロジー
- 2位:デバイス
- 3位:ユビキタス
- 4位:その他
売上・営業利益ともに「テクノロジー」が稼ぎ頭になっていることがわかります。
そして営業利益では「デバイス」の方が「ユビキタス」よりも頑張っている印象を受けます。
研究開発費 順位(少ない順)
- 1位:デバイス
- 2位:ユビキタス
- 3位:その他
- 4位:テクノロジー
設備投資額 順位(少ない順)
- 1位:その他
- 2位:ユビキタス
- 3位:デバイス
- 4位:テクノロジー
「デバイス」は研究開発費にはそこまでお金がかかっていませんが、設備投資となるとかなりお金がかかることがわかります。
「テクノロジー」は一番お金がかかっている分稼いでくれているので特に問題なさそうで、「ユビキタス」はそこまでお金がかからない事業のようです。
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
セグメント 総合順位
- 1位:ユビキタス(偏差値:64)
- 2位:テクノロジー(偏差値:56)
- 3位:その他(偏差値:41)
- 4位:デバイス(偏差値:40)
売上・営業利益の貢献度ではあまり目立っていなかった「ユビキタス」ですが、コストパフォーマンスは最高に良いようで、稼ぎ頭である「テクノロジー」を上回っています。
そして意外にも「デバイス」は金食い虫の「その他」とほぼ同じようなコストパフォーマンスとなっています。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:ユビキタス
- 2位:デバイス
- 3位:テクノロジー
- 4位:その他
売上は「ユビキタス」が頭一つ抜けており、その下にだいたい同じくらいの「テクノロジー」と「デバイス」がいます。
その他は全社機能としての役割が強いのかほとんど売上を挙げていないようです。
利益/従業員数 順位
- 1位:テクノロジー
- 2位:デバイス
- 3位:ユビキタス
- 4位:その他
営業利益では「テクノロジー」が1位のようです。
そして数値を見ると「ユビキタス」と「デバイス」はなんとも微妙な水準です。
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:テクノロジー
- 2位:デバイス
- 3位:ユビキタス
- 4位:その他
利益効率は「テクノロジー」が2位以下にダブルスコア近くをつけて圧勝しています。
「その他」はもはやよくわからないことになっています。
順位をまとめると以下のようになります。
※各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※下位項目を赤字で示しています。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:ユビキタス(偏差値:58)
- 2位:テクノロジー(偏差値:55)
- 3位:デバイス(偏差値:54)
- 4位:その他(偏差値:33)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:ユビキタス(偏差値:64)
- 2位:テクノロジー(偏差値:56)
- 3位:その他(偏差値:41)
- 4位:デバイス(偏差値:40)
なんだかんだで個人技でも「ユビキタス」が1位となっています。
ただし2位の「テクノロジー」との差はチーム力の時と比べて縮まっており、そしてその「テクノロジー」と3位の「デバイス」の差も縮まっています。
チーム力では各事業でバラツキがありましたが、個人技ベースでは各事業の間にそこまで差がないようです。
②どこの国で仕事をしているのか
地域別 順位
- 1位:日本
- 2位:EMEIA
- 3位:アジア
- 4位:アメリカ
- 5位:オセアニア
売上の6割以上を日本で挙げているので、一概にグローバル企業とは言えない感じです。
とは言うものの海外展開自体は進んでいるようです。
③会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
流動比率は普通ですが、自己資本比率は意外にも低めのようです。
ただどちらの指標も年々上昇してきているようなので、少しずつ財務基盤が良くなってはきているようです。
B:CF計算書
※単位は百万円
純利益はバラツキがありますが営業CFは毎年2,000億円以上は稼いでおり、かつ投資CFもその内々で抑えているので堅実な経営をしていると言ってよいでしょう。
④会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
売上は減っていますがそれに反比例して純利益は増えていることから、規模の成長はしていないけれども質の成長はしていると言えます。
顕著に出ているのが純利益率の推移で、年々改善していっています。
⑤投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
ROEにも質の成長が現れています。
ここ数年で「普通」から「まあまあ良い」までレベルアップしているようです。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
設備投資にはそれなりにお金がかかっているようですが、それでも数百億円の自由資金は残せていることから、多少なりとも経営に余裕はありそうです。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
不況時には売上は減少し純利益もデコボコしています。
ただ営業CFだけは安定して2,000億円以上をキープしていることから、景気の影響は受ける上に表面上はダメージが大きそうに見えるけれども、経営自体が揺らぐ可能性は低いのではないかと思います。
⑥まとめ
これまで富士通を数字で見てきたことをまとめると、
- ・稼ぎ頭は「テクノロジー」
- ・コストパフォーマンス&個人技最強は「ユビキタス」
- ・「テクノロジー」のコストパフォーマンス&個人技は飛び抜けてはいないが、安定した成績を収めている
- ・コストパフォーマンスは各事業間で差があるが、個人技ベースではそこまでの差はない
- ・海外展開は進んでいるが、依然としてドメスティック色が強い
- ・財務基盤はそれほど強くないが、近年は改善傾向にある
- ・経営は堅実
- ・規模の成長はしていないが、その代わりに質の成長が進んでいる
- ・お金の使い方は上手くなってきている
- ・自由資金は毎年一定額を残せている
- ・景気の影響は受けるが、経営自体が揺らぐ可能性は低い
ということになるでしょう。
⑦ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「ユビキタス」を攻める
この会社の稼ぎ頭はどこからどう見ても「テクノロジー」でしたが、コストパフォーマンス&個人技では実は「ユビキタス」が最強だということを確認してきました。
おそらく競合就活生の多くは「『テクノロジー』に携わりたいこと」をアピールしてくるものと思われ、会社側としても需要は多いにあるとは思うのですが、ここでは差別化と会社側の需要へのマッチという観点から、敢えて「『ユビキタス』に携わりたいこと」をアピールするのが有効なのではないかと考えます。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。