はじめに
ここでは就活生のみなさんが有価証券報告書に記載されている実際の数字を元にして企業研究をする時に重要な用語について、出来るだけ噛み砕いて説明していこうと思います。
今回は主に会社の安定性に関わる指標の「自己資本比率」を説明して行きます。
目次
①自己資本比率とは
自己資本比率をカンタンに言うと、
「現金・設備・商品在庫など会社が持っている全ての資産(総資産)」
に対して
「返す義務のない現金含めた手持ちの資産(純資産)」
がどれほどあるか。
つまりは
資産のうちどれほどを返す義務のない資金でまかなえているかを示す指標
です。
計算式は以下の通り
自己資本比率(%)=純資産÷総資産
通常パーセント表記をするのですが、見る上で重要なのはこの比率が50%を上回っているかそうでないかです。
50%以上
総資産のうち半分以上を返す義務のない資金でまかなえている為、借金相手からいきなり「金返せ!」と言われても、理論上は建物や商品在庫を全て現金化すれば借金を完済して会社を存続出来る状態。
50%未満
逆に総資産のうち半分以上を借金でまかなっている為、借金相手からいきなり「金返せ!」と言われて、建物や商品在庫を全て現金化して返済してもまだ足りない状態。
厳密ではないが、俗にいう債務超過と似たような状態。
②なぜ自己資本比率が重要なのか
ではなぜ自己資本比率が会社の安定性を測る上で重要なのでしょうか。
理由は二つあります。
理由1:万が一に備える為
一つ目は「万が一に備える為」です。
世の中確実なことはないので、上記の項目①「自己資本比率とは」で説明した状況、借金相手からいきなり「金返せ!」と言われた時でも対応して生き残ることが出来るに越したことはありません。
むしろそういう困ったことになった時に企業の本当の実力がわかる可能性が高いです。
それはそうなんですが、いきなりそういったことが現実世界で起こる可能性はあんまりない、ということを説明しておきます。
なぜなら企業が抱える借金は、短期の借金(直近1年以内に返済しなければならない借金)と長期の借金(直近1年以降に返済ということで取り決めた借金)に分かれているからです。
ここで重要なのは借金をする前に「返済期日」を「お互いに同意」して取り決めたことにあります。
つまり、通常は借りた側は期日までには確実に借金を返済しなければならないのと同時に返済を前倒しするという権利を持っているのに対し、貸した側は期日が来るまでは借金を返せとは言えない、返済の前倒しを強要する権利はないということです。
なので短期の借金がちゃんと返済出来ているならば、長期の借金に関しては向こうが何と言って来ようと取り合う必要はない訳です。
「それなら心配する必要ないじゃん」という声も聞こえてきそうですが、企業が借金をする際にその契約の中に「財務制限条項」という項目を盛り込んでいる場合には心配する必要が出てきます。
この「財務制限条項」とはカンタンに言うと
「お金は貸すよ。基本的に返済期日まで返済しなくていいよ。
ただ、利益とか財務状況とかはこれくらいの基準を保ってね。
もしその基準を下回ったら、返済期日になる前でも即刻全額返済しなきゃならないからね。」
というものです。
これは金融機関がお金を貸す時に契約に含めるもので、貸出金を回収するためのリスクヘッジと言えます。
これも有価証券報告書に具体的にどういう条件か詳しく書いてあります。
場所はだいたい「連結貸借対照表関係」という項目の中にあり、条項の例をいくつか挙げると
- ・今期末の純資産を前期の75%以上に維持すること
- ・経常利益を2期連続で赤字にしないこと
- ・(不動産業の場合)現預金と保有している土地・建物の金額を足したものが、借金の額を下回らないこと
などです。
この基準に抵触すると「アウト」ということになります。
ここで注目したいのが「(不動産業の場合)現預金と保有している土地・建物の金額を足したものが、借りたお金の金額を下回らないこと」です。
土地・建物は通常であれば借金をして建てるので借金額を下回ることはなさそうなのですが、実際はありえます。
なぜなら土地・建物にはその時々の相場次第で、価格が変動するからです。
仮に3億円を現金で持っている不動産系の企業が銀行から5億円の借金をして、時価5億円の販売用の建物を建てたとしましょう。
上記の条項によればこの企業の場合は、
現金3億円+建物時価5億円 = 時価8億円 > 借金額5億円
となっているのでセーフです。
ですが景気の悪化による不動産価格が暴落に伴い、保有している販売用の建物の時価が5億円から1億円に下がった場合はどうでしょうか。
現金3億円+建物時価1億円 = 時価4億円 < 借金額5億円
こうなるとアウトで、借金の5億円を即座に返さなければなりません。
他の資産を切り売りしたり、他の銀行から借金したりして5億円を捻出出来ればよいのですが、それが出来なかった場合は会社更生法を申請する必要がありそうです。
長くなりましたが
こういったリスクを回避する為に、自己資本比率は高いに越したことはない
という訳です。
理由2:会社の成長性
そして自己資本比率が重要な二つ目の理由ですが、これは「会社の成長性」と関係があります。
どういうことかと言うと、
自己資本比率が高い企業は返済の義務がない自由に使えるお金を多く持っているということが多いので、新規事業の開発や既存事業のレベルアップなどに自由にお金と時間を注げる可能性が高い
のです。
そうすることによって「事業への投資→会社の成長を後押し→利益が増えることによって自由に使えるお金が更に増える→事業投資→会社の成長を後押し・・・」という好循環を生み出すことが出来るかもしれません。
なので「時間と使途共に自由に使えるお金」は企業にとってたくさんあった方が良いと思うのです。
③自己資本比率を見るときの留意点
留意点としては、
自己資本比率は業種によってかなりバラツキがある
ということです。
不動産業などは基本的に借金をして販売用の建物を建てるので、自己資本比率は低めなのが大抵です。
一方インターネット系の企業の自己資本比率はかなり高いです。
高いところだと90%とかあります。
なぜならアプリケーションの開発や販売はさいあくパソコンとネット環境だけあれば出来るので、工場や建物などの設備投資をほとんど必要としないからです。
なので自己資本比率を見る時には
「ここは低いからまずい!」「ここは高いから良い!」ということだけでなく、同業他社も見て比較した方がいい
と思います。
もしかしたら比較する中でその企業の経営のニュアンス(攻めの経営をしているのか、それとも安定性を重視しているのか、など)を感じ取れたり、面白そうな企業を発掘出来たりするかもしれません。
④まとめ
以上に述べてきたことから、自己資本比率というのは「会社の安定性」を主に測る指標であると同時に、「会社の成長性」も推測出来る指標であると言えるでしょう。
もし行きたい企業が上場企業である場合には、自己資本比率を有価証券報告書で確認することが出来るので、見ておいた人の方が見ていない人よりも企業への理解が深まる可能性があると思います。