はじめに
この記事では「就活生=投資家」「就職=自分という資本を企業に投資する」と定義した上で、就活生に人気がありそうな上場企業を「有価証券報告書」という上場企業なら毎年提出しなければならない成績表に書かれている「数字」という客観的事実のみで見てみようとするものです。
なのでここに書かれていることは、あくまで企業に対する直感を補足するものないしは裏付けるものとして捉え、就活に役立ててもらいたいと思っています。
では就活人気企業として、KDDIを取り上げます。
目次
KDDIはいったいどんな商売をしているのでしょうか?
最新の有価証券報告書から抜粋すると、5つの事業に分けることが出来ます。
- パーソナル
- 個人向けの通信サービス及びエネルギー・教育サービス等の提供。
沖縄セルラー電話、ジュピターテレコム、UQコミュニケーションズ、ビッグローブ、イーオンHDなど - バリュー
- 個人向けのコマース・金融・決済・エンターテインメントサービス等の提供。
ジュピターショップチャンネル、じぶん銀行など - ビジネス
- 企業向けの通信サービス及びICTソリューション・データセンターサービス等の提供。
中部テレコミュニケーション、KDDIまとめてオフィス、KDDIエボルバ、ラックなど - グローバル
- 海外での個人・企業向けの通信サービス及びICTソリューション・データセンター等の提供
KDDI Americaなど - その他
- 通信設備建設及び保守、情報通信技術の研究及び開発等。
KDDIエンジニアリング、KDDI総合研究所、国際ケーブル・シップ、日本通信エンジニアリングサービス、京セラコミュニケーションシステムなど
どんな仕事の種類があるのか
各セグメントの直近3年間の平均数値は以下になります。
※「研究開発費」と「設備投資額」についてはセグメント毎に公表をしていないので、今回は記載を省略します。
売上 順位
- 1位:パーソナル
- 2位:ビジネス
- 3位:バリュー
- 4位:グローバル
- 5位:その他
利益 順位
- 1位:パーソナル
- 2位:バリュー
- 3位:ビジネス
- 4位:グローバル
- 5位:その他
順位をまとめると以下のようになります。
※
各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※
下位項目を赤字で示しています。
セグメント 総合順位
- 1位:パーソナル(偏差値:70)
- 2位:ビジネス(偏差値:47)
- 3位:バリュー(偏差値:46)
- 4位:グローバル(偏差値:44)
- 5位:その他(偏差値:43)
「パーソナル」の圧倒的な強さが目立ちます。
誰が見ても明らかにこの会社のメイン事業です。
そしてその他のセグメントは押し並べてだいたい同じくらいのクオリティの事業であることがわかります。
次に従業員1人あたりの売上と利益について見てみましょう。
※売上/従業員数・利益/従業員数の単位は百万円
売上/従業員数 順位
- 1位:パーソナル
- 2位:バリュー
- 3位:ビジネス
- 4位:グローバル
- 5位:その他
ここでも「パーソナル」の圧倒的な強さが目立ちます。
売上貢献度では「バリュー」は「ビジネス」の2分の1程度でしたが、個人技となると順位は逆転しています。
利益/従業員数 順位
- 1位:パーソナル
- 2位:バリュー
- 3位:ビジネス
- 4位:グローバル
- 5位:その他
利益においてもやはり「パーソナル」が1位ですが、「バリュー」がかなり近づいてきています。
1人あたり利益/売上 順位
- 1位:バリュー
- 2位:その他
- 3位:パーソナル
- 4位:ビジネス
- 5位:グローバル
営業利益率となるとついに「バリュー」が1位に躍り出ます。
そして「バリュー」と同程度利益率を「その他」を有していることがわかります。
「パーソナル」もなんだかんだで3位につけていますが、その利益率は1~2位に遠く及びません。
順位をまとめると以下のようになります。
※
各数値の偏差値を基準として順位を算出しています。偏差値の平均は50です。
※
下位項目を赤字で示しています。
従業員1人あたり 総合順位
- 1位:パーソナル(偏差値:62.92)
- 2位:バリュー(偏差値:60.98)
- 3位:ビジネス(偏差値:43.99)
- 4位:その他(偏差値:43.90)
- 5位:グローバル(偏差値:38.21)
(参考)
セグメント 総合順位
- 1位:パーソナル(偏差値:70)
- 2位:ビジネス(偏差値:47)
- 3位:バリュー(偏差値:46)
- 4位:グローバル(偏差値:44)
- 5位:その他(偏差値:43)
結局は個人技でも「パーソナル」が1位となっていますが、「バリュー」が大躍進を果たして2位になっておりその差はあまりなくなっています。
「ビジネス」は個人技よりもチームとしての力の方が強く、「その他」はチームでも個人でも強さはほぼ変わらず、「グローバル」は個人では弱いけれどもチーム力によってカバーしているような感じです。
どこの国で仕事をしているのか
「本邦の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の大部分を占めるため、記載を省略しております。」と有価証券報告書に書いてあるので、今回は記載を省略します。
実際にセグメントの「グローバル」を見ると3年平均で売上比率が約5%程度なので、かなりドメスティックな会社であることがわかります。
会社の安定性を測る指標
- A:流動比率&自己資本比率
- B:CF計算書
A:流動比率&自己資本比率
2項目とも割とマトモな数値を記録しています。
なんとなくの傾向を見ると近年では短期資金の割合を少し減らす代わりに長期の資金をぶ厚くしているような印象です。
B:CF計算書
※単位は百万円
毎年6.000億円くらいを投資に使っているのでけっこうお金は使っているようですが、各年営業CFの範囲内で収めてあり、かつ財務CFのマイナスで払うものは払っているので経営は堅実だと思います。
会社の成長性を測る指標
※単位は百万円
徐々にではありますが年々成長していっているようです。
売上に関しては年々3,000億円程度伸びていっており、純利益率も各年同程度を維持出来ていることから、クオリティを保ったまま順調に成長していることがわかります。
投資家目線で見た魅力的な会社とそうでもない会社の違い
- A:ROE(自己資本利益率)
- B:FCF(フリーキャッシュフロー)
- C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
A:ROE(自己資本利益率)
ROE、つまり「投資家から預かったお金を使っていかに効率良く利益を出しているか」という観点で企業をチェックする場合、全世界的に見て
- 5%未満=最悪
- 5%=微妙に悪い
- 10%=普通
- 15%=まあまあ良い
- 20%以上=素晴らしい
となります。
ではROEの直近3年間の推移を見てみましょう。
3年間でほとんど変わらず「16%」程度を維持していることから、割とお金の使い方は安定して良いということになるでしょう。
B:FCF(フリーキャッシュフロー)
※営業CF・実質設備投資・ネットFCFの単位は百万円
平均で1兆円の営業CFを生み出しているのは立派です。
ただ設備投資にやはり平均で6,000億円を使っているので事業維持にはそれなりにお金がっかっているようです。
それでも平均で4,000億円(3年合計だと1兆2,000億円)の自由資金を残せているのでかなり優秀だと思います。
C:不況時の売上・純利益・営業CFの推移
※単位は百万円
売上と純利益ともに多少のダメージを受けているように見えますが、営業CFについては年々増加の一途を辿り、純利益率も一定水準を維持出来ていることから不況耐性はかなり強いものと思われます。
まとめ
これまでKDDIを数字で見てきたことをまとめると、
- ・「パーソナル」がメイン事業
- ・個人技ベースでは「バリュー」と「パーソナル」の実力は拮抗する
- ・海外進出はほとんどしていない(いちおう利益は出ている)
- ・財務の健全性は普通くらい(極端に良くも悪くもない)
- ・経営は堅実
- ・お金の使い方は安定して上手い部類に入る
- ・成長軌道に乗っている
- ・不況耐性はかなり強い
ということになるでしょう。
ES・面接での想定訴求ポイント
ここでは有価証券報告書で調べてきたことを実際のESや面接でどうやって活かしていけるか、という点に絞って想定される訴求ポイントを挙げます。
「バリュー」を攻める
世間一般のイメージ的にも実績的にも個人向けの通信サービス分野である「パーソナル」がこの会社のメイン事業であることが確認出来ました。
そしてこの会社はいわゆる「超優良企業」であるのでまともに「パーソナル」を志望して就活に臨めば激しい競争に巻き込まれる可能性が非常に高いように思えます。
なのでいつも通り「会社の需要へのマッチ」と「競合就活生との差別化」の路線で考えると個人技ベースでは「パーソナル」に引けをとらない優良事業であり、なおかつ割とマイナー事業でもある「バリュー」に携わりたいことをアピールするのが合理的なのではないかと思います。
有価証券報告書で調べたことから使えそうなところを捻り出すとしたら、上記のようになると思います。
有価証券報告書だけでなく、企業の「IR情報」という投資家に向けて公表している情報には業績や今後の方針などをわかりやすくパワーポイントでまとめたものもあるので、興味を持たれた方はそちらも見てみると良いかもしれません。