もくじ
1. はじめに
なんとなく大学に入学したものの、その後やはり医療の道に進みたいと考える人は少なくないのではないでしょうか?中でも、広く多くの人の命と健康を支えることが出来る製薬業界に魅力を感じる人はきっと多いはずです。
そこで、今回は『薬学出身以外の学生が製薬企業へ就職するための方法』について考察してみました。
そもそも製薬業界は、景気に左右されない安定性、人の命に関われるという社会貢献度の高さ、そして高い給与水準(業界の平均年収は約800万程度です)のイメージから、就活生に人気の業界です。
そんな製薬業界の中でも、研究職は最もやりがいのある職種の一つであると思います。なぜなら自らが開発に携わった薬で、世界中の何万人という方の命を救うことができるからです。
「製薬企業の研究職に就くためには、薬学出身者が有利なんじゃないの?」
と思っているそこのあなたにお伝えしたいことがあります。それは、製薬企業の研究職の内、約50%は薬学以外の出身であるということです。この数字を多いと思うか少ないと思うかは個人の感覚によるところですが、正直私は『多い』と思いました。
私自身薬学出身者でしたが、薬に関するバックグラウンドのない理系学生がどうして製薬企業の研究職の内定を取れるかが不思議でした。
今回は、薬学出身の私が製薬企業研究職の採用試験を受けていく中で感じた、薬学出身以外の理系学生が製薬企業の研究職に内定をもらう方法について考えてみたいと思います。
2. 日本の医薬品産業について
では、まずは、改めて非薬学系の学生が製薬業界を目指すメリットについて考えてみましょう。
(1)国際競争力が高い
世界の医薬品売上上位100品目の内、12品目が日本で開発されたものです(2008年度、製薬協HPより)。
これはアメリカ、イギリスに次いで第3位の成績であることから、日本の医薬品産業は、世界に誇るべき産業の一つと言えます。
薬、とりわけ新薬の開発には高い知見と経験、そして何より開発を行うための潤沢な資金が必要です。新薬の開発成功確率は奇跡的な数値であり、その殆どが失敗に終わるからです。落ち目とはいえ、世界的に見ればまだまだ豊かな国である日本は製薬業界においても世界的に競争力を有しています。新薬、ジェネリック薬品、OCT薬品の違いについては以下の記事を参考にしてみて下さい。(別ウィンドウで開きます)
【製薬業界研究】新薬、ジェネリック、OTC、それぞれの特徴と将来性
(2)安定している(景気に左右されづらい)
医薬品業界は景気の影響を受けにくく、他産業に比べると安定した産業だと言われます。ヒトは誰しも病気にかかり、その治療や予防は生きていく上で必要不可欠であるからです。
また国からも多くの税金も投下されているため、政府の介入が無い完全に自由な市場で企業活動を行う他業界の企業よりも、安定性が高いといえます。
(3)高齢化社会でも成長が見込める市場
さらに、日本においては近い将来、超高齢化社会を迎えます。今後、医薬品産業への需要が高まることは必至であり、他産業と比較して高水準の成長が見込まれる業界と言えます。
尚、ビズリーチ社の調べによれば、平均年収1000万円超のビジネスパーソンに聞く就活生にお勧めの業界の第2位に医薬品業界が位置しています。それだけ注目度が高く人気の業界であると言えるでしょう。
3. 非薬学系出身の学生でも就活で不利にならない理由
企業が求めているのは薬学の知識ではなく専門性
薬学部の学生は、薬学部でしか習うことのできない学問を学んできています。例えば、
- ・薬の名前と適応症
- ・作用メカニズムを学ぶ薬理学
- ・体内における薬のふるまいを学ぶ薬物動態学
- ・その他製薬会社の研究員をお招きした特別講義
などを多く聴講しています。
従って、他学部の学生と比較して、医薬品業界に関する基礎知識は早くから身についています。
ですが、これら薬学の知識がが就活において有利に働くかと言えば、そうでもありません。
なぜならば、製薬会社の研究職を採用する人事の方々が製薬系の学部出身の学生に求めるものは、医薬品業界の知識や薬の幅広い知識ではなく研究内容の高い専門性だからです。(※もちろん最低限の人格やコミュケーション能力を有していなければ専門性があっても内定しません。)
薬学部の学生は広く浅く学んでいることが多い
一般に、薬学部の学生は非常に幅広い分野の勉強をしています。
学生時代に受ける講義の時間は限られているため、薬学部の学生の知識は広く浅いという特徴があります。
したがって、企業の求める専門性の高さを満たさない薬学生も多く存在し、結果として約半数が薬学以外の出身者で占められるものと考えられます。
非薬学部系の学生にも開かれた採用過程
一方で、一部の製薬企業の選考過程の中で筆記試験が設けられる場合があります。中には薬学の専門知識が必要な問題もありますが、5, 6個の大問の中から選択する形式のため、薬学に関する問題を選択しなければ通常の筆記試験と同じです。また、面接の中で薬の専門知識を問われることはありません。
このことから、企業側は薬学以外の学生が不利にならないように配慮していることがうかがえます。
つまり企業側は、異なる専門性を有する幅広い人材を確保するために、あらゆる理系学生が対等になるように配慮していると言えます。
いくら研究職とは言え、人材の多様性は重要ですから、薬学系出身者に門戸を限定することは採用を非効率にしてしまうだけだからです。
4. 薬学出身以外の学生が製薬企業の研究職に内定をもらうためにできること
製薬企業の選考過程には多くのステップがあります。製薬企業に内定をもらうためには多くのテクニックが必要ですが、今回は研究概要を書く段階や面接で推すべきポイントに重点を置いたアドバイスにしたいと思います。就活一般の基本的なテクニックについては、本サイトの他の記事を参照してください。
では本題に移ります。製薬企業の研究職は、大きく分けて以下の5つの研究分野が存在します。
- 【生物(薬理)研究】
- 病気の発症メカニズムを分子レベルで解明。分子生物学の知識が必要。
- 【有機合成研究】
- 分子医薬品の全合成法を研究。有機合成の知識が必要。
- 【薬物動態(毒性)研究】
- 薬物の体内におけるふるまいを研究。薬物動態学の知識が必要。
- 【分析研究】
- 医薬品シード化合物の分析法を研究。分析化学の知識が必要。
- 【製剤研究】
- 医薬品の製剤化技術を研究。薬剤学または物理化学の知識が必要。
正直なところ、これらの中で、あなたの研究分野と被る分野があることが最低限の必要条件と言えますが、ほとんどの方はいずれかには属すと思います。それだけ創薬は幅広い専門分野が必要ということを意味しますが、逆に言えば、誰にでもチャンスはあることを意味します。
製薬に限定しないいずれの分野においても、就活生に求められるものは1つです。それは、企業の売上・利益に貢献できるということです。
大学時代に身に付けた高い専門性を武器として、あなたの技術がどのように人の命を救うことに貢献し、結果として企業の発展に貢献できるかをしっかりアピールする必要があります。
特に、薬学部以外の学部では、専門性の高さが強みとなることは先にも述べました。狭い研究領域を突き詰めた先にあるアイデンティティを存分にアピールすることで、研究者としての価値は高まり、内定の可能性も上がると期待されます。
5. まとめ
いかがでしたでしょうか。非薬学系の出身学生が、製薬企業の研究職に内定できる可能性について解説させて頂きました。
今回のポイントは、
非薬学部出身の学生が製薬企業の研究職に内定するにはのまとめ
特に(3)の能力のアピールは製薬企業の研究職に限らず、あらゆる業界・職種で内定をもらうために普遍的に通用するポイントといえます。
私が参考にした複数の就活本、あるいは集団面接で一緒になった学生の話を聞いた限りでは、このポイントを押さえていない、自分の能力を相手に伝わるように説明できていない学生がとても多いなと感じました。
特に研究職志望の学生は、自分の強みや実績をアピールするだけに留まる場合がほとんどで、その強みや実績に至るまでの考え方や行動パターンが企業の売上や利益にどう貢献するかまで話が落とし込めていないことが多かったです。
もちろん彼らがどこに就職するかはわかりませんが、自分の長所をどれだけアピールしても、それが会社の売り上げに貢献できるものでなければ内定はとれないと思っています。
この記事を読んでいただいた皆さんには、製薬会社を志望するか否かに関わらず、『その他大勢』と一線を画した学生になっていただきたいと強く思っています。